はじめに
「目が疲れると、なぜか首や肩まで凝ってくる」
このような経験をしたことはないでしょうか?
長時間パソコンを使った後だけではありません.
ドライアイで目がショボショボする,目がかすむ,ピントが合わせにくい.それほど強い目の症状ではなくても,同時に首の後ろが重くなったり,肩が張ったりすることがあります.
一般には,
「目が疲れたから肩が凝った」
と説明されることが多いのですが,実際の身体の仕組みはもう少し複雑です.
目と頸部は,
- 三叉神経系
- 自律神経系
- 眼球運動と頸部筋の協調
- 姿勢制御
- 痛みの神経回路
などを介して密接に関係しています.
そのため,
目の不調 → 頸部の筋緊張
だけでなく,
頸部のコリ・痛み → 目や眼周囲の不快感
という,双方向の影響を考える必要があります.
1.ドライアイでも「目から首」への反応は起こり得る
ドライアイというと「涙が少ない病気」と考えられがちですが,実際には眼表面の炎症や知覚神経の異常なども関係する複雑な病態です.
角膜や結膜には非常に多くの感覚神経が分布しています.
眼表面が乾燥したり刺激されたりすると,その情報は主として三叉神経を通って脳へ送られます.
つまり,
眼表面の乾燥・刺激
↓
三叉神経への感覚入力増加
↓
中枢神経で「不快」「痛い」と認識
という反応が起こります.
そのため,「目がショボショボする」という程度の症状であっても,神経系から見れば眼表面から刺激が入力され続けている状態と考えることができます.
そして,この三叉神経系は頸部と無関係ではありません.
2.三叉神経と上位頸髄は密接につながっている
顔面や眼周囲からの痛みを伝える三叉神経の情報は,脳幹から上位頸髄にかけて処理されます.
一方,後頭部や上部頸部から入ってくる感覚情報も,この領域と機能的に密接な関係があります.
頭痛の研究では,この領域を三叉神経頸髄複合体(trigeminocervical complex:TCC)として捉えることがあります.
簡単にいえば,
「目・顔から入ってくる感覚」と「上部頸部から入ってくる感覚」が,中枢神経内で非常に近い関係にある
ということです.
これによって,
眼表面の刺激
→ 三叉神経系への入力
→ 頭痛や眼周囲の不快感
→ 頸部の防御的な筋緊張
という方向が考えられます.
反対に,
頸部の筋・関節などからの侵害刺激
→ 上位頸髄
→ 三叉神経系と関連する中枢処理
→ 頭部・眼周囲の不快感
という方向も考えることができます.
したがって,
「目が悪いから首が凝る」
だけではありません.
「首が凝っているため、目の周囲までつらく感じる」
という現象も,神経学的には十分考えられるのです.
3.目と首は「視線を安定させるチーム」
もう一つ重要なのが,眼球運動と頸部筋活動の関係です.
私たちは「見る」という動作を,眼球だけで行っているわけではありません.
例えば右側にある物を見るとき,
眼球を右へ動かす
+
必要に応じて頭を右へ向ける
+
その位置で頭を安定させる
という一連の動作を無意識に行っています.
そのため視覚系は、
- 眼球運動
- 前庭感覚
- 頸部の固有感覚
- 頸部筋活動
などと連携しながら視線を安定させています.
頸部筋から入ってくる固有感覚情報も,「自分の頭がどちらを向いているのか」「視線が空間のどちらを向いているのか」を判断するために利用されています.
つまり,
目と首は別々に働いているのではなく,一つの「視線・頭部安定システム」として協調している
と考えると分かりやすいでしょう.
4.「見えにくい」は頸部筋の仕事を増やす
目に不調があると,私たちは無意識に「見やすい位置」を探します.
例えば,
- 顔を画面に近づける
- 顎を前に出す
- 頭を少し傾ける
- 目を細める
- モニターを覗き込む
- 頭を固定して画面を凝視する
といった行動です.
問題なのは,頭が身体の上に乗っている「重い物体」であることです.
頭部が身体の中心から前方へ移動するほど,重力に対抗して頭を支える頸部伸筋群の負担は大きくなります.
特に,
後頭下筋群
頭板状筋
頸板状筋
僧帽筋上部
肩甲挙筋
などには持続的な筋活動が要求されます.
短時間なら問題にならなくても,パソコンやスマートフォンを何時間も使えば,
見えにくい
↓
見ようとして姿勢を変える
↓
頭部が前方へ移動する
↓
頸部筋が持続的に働く
↓
首・肩が重い、凝る、痛い
という流れが成立します.
5.「目を頑張って使う」だけでも頸部筋活動が変化する可能性
さらに興味深いのは,単純な姿勢だけでは説明できない部分です.
視覚調節,つまり近くの物にピントを合わせようとする負荷と,頸部筋活動との関連が研究されています.
近年の系統的レビューでも,視覚調節と僧帽筋の筋活動増加との関連が報告されています.
つまり,
目を酷使する
→ 姿勢が悪くなる
→ 肩が凝る
だけではなく,
視覚系への負荷そのものが頸部の運動制御や筋活動と関連している
可能性があるのです.
これは「目がショボショボすると,ほとんど同時に首まで重くなる」という感覚を考えるうえでも興味深い点です.
6.交感神経の緊張も目と頸部をつなぐ
長時間のパソコン作業などでは,視覚負荷だけが問題になるわけではありません.
仕事に集中していると,
- 精神的緊張
- 集中
- 作業ストレス
- 呼吸の浅さ
- 瞬目回数の低下
- 同一姿勢の持続
などが同時に起こります.
こうした状況では,交感神経活動が高まりやすくなります.
交感神経優位の状態では身体は「活動モード」になりますから,筋肉も完全に脱力しにくくなります.
その結果,
視覚負荷・ストレス
↓
交感神経活動の亢進
↓
頸肩部の筋緊張が抜けにくい
↓
コリ・重さ・痛み
という経路も考えることができます.
一方,ドライアイの症状そのものがストレスとなり,さらに自律神経系へ影響する可能性もあります.
したがって,
眼表面の不快感
→ ストレス反応
→ 交感神経緊張
→ 頸肩筋緊張
→ さらに身体的ストレスが増える
という循環にも注意が必要です.
ただし,「首が凝る=交感神経が原因」「交感神経を整えればドライアイが治る」というほど単純な関係ではありません.
あくまでも複数ある経路の一つとして考える必要があります.
7.今度は「首から目」へ影響する
ここまで説明すると,
「目が悪いから首が凝る」
という方向は比較的理解しやすいと思います.
しかし重要なのは逆方向です.
頸部には非常に多くの筋紡錘などの感覚受容器があり,頭の位置について絶えず脳へ情報を送っています.
脳は,
目からの視覚情報
+
内耳からの前庭情報
+
頸部からの固有感覚情報
を統合して,
「自分の頭がどこを向いているのか」
「物体がどこにあるのか」
「視線をどちらへ向ければよいのか」
を判断しています.
そのため,頸部の筋緊張や痛みなどによって頸部からの感覚入力が変化すれば,視覚・眼球運動との協調にも影響する可能性があります.
これは,
首と目が独立した器官ではない
ことを示す重要なポイントです.
8.最終的に「痛み―筋緊張」の悪循環が形成される
最初のきっかけはドライアイだったと仮定しましょう.
ドライアイ
↓
眼表面から三叉神経への刺激
↓
眼周囲の不快感
↓
視覚への集中・見え方の補正
↓
頭頸部筋活動の増加
↓
首・肩のコリや痛み
ここで終われば,目を休めれば改善するかもしれません.
しかし頸部痛が持続すると,今度は,
頸部の痛み
↓
身体がその場所を守ろうとする
↓
防御的な筋収縮
↓
筋緊張が持続する
↓
さらに不快感・痛みが増える
という循環が始まります.
さらに頸部からの感覚入力は視覚系や三叉神経系とも関係します.
すると,
目がつらい
↓
首が緊張する
↓
首が痛くなる
↓
頭部・眼周囲も不快になる
↓
さらに目をつらく感じる
↓
さらに首が緊張する
という双方向の悪循環が成立する可能性があります.
「目だけ」「首だけ」を見ないことが大切
ここまでをまとめると,目と頸部の関係は,
①三叉神経系
②自律神経系
③眼球運動と頸部筋活動の神経学的連動
④見え方を補正するための姿勢変化
⑤痛みと筋緊張の悪循環
という複数の仕組みが重なっていると考えることができます.
そのため,
目が悪いから首が凝る
という一方向だけで考えるのではなく,
目の不調 ⇄ 頸部の不調
という双方向性で考えることが重要です.
目の不調があるからこそ、頸肩部も確認する
当治療室では,目の不調を訴える方に対して,目の周囲だけを見るのではなく,頸部や肩背中の状態も確認します.
例えば,
「最近ドライアイがひどい」
という方でも,実際に身体を確認すると,
- 後頭部が非常に緊張している
- 首を動かせる範囲が狭くなっている
- 僧帽筋や肩甲挙筋が緊張している
- 長時間のパソコン作業で頭部が前方へ出ている
といった状態がみられることがあります.
もちろん,ドライアイや眼痛,視力低下などの原因を「首のコリ」と決めつけることはできません.
目の病気については眼科での診断・治療が基本です.
そのうえで,
「眼科では目を診てもらいながら,身体側では目に負担をかけている頸肩部や全身の状態にも目を向ける」
という考え方が必要かと思います.
目と首は,思っている以上に密接につながっています.
目の症状だけを追いかけるのではなく、
「なぜ目がつらいと首まで凝るのか」
「なぜ首がつらい日に目まで疲れるのか」
という双方向の視点から身体を考えてみることも大切です.

