炎症による痛みとアイシング 

鍼と灸とLLLTと

身体の何処かに炎症が起きてしまって,痛みや腫れがなかなか治まらずにお悩みの方は少なくないかも知れません.当治療室の場合だけかも知れませんが,運動器の痛み疾患で鍼灸を初めて受療する方の多くは,既に医療機関で治療や処方を受けているけれど症状が改善に至らないという方が多いように思います.痛みや炎症も慢性化すると,その改善には困難を伴うケースは少なくありません.保険診療の対象である整形外科理学療法や接骨とことなり,自費の鍼灸では保険診療ほど頻繁に介入することも難しいこともあります.その様なときに鍼灸では自宅で施灸してもらったり,置き鍼を行う事が多いかと思います.加えて当治療室では,慢性的な炎症症状などには自宅でアイシングを実施してもらうこともあります.

そんなアイシングについて,どのような効果が期待できるのか整理してみたいと思います.

①菌やウィルスなどに感染した場合にこれらを取り除く反応 
②特定の部位に負荷やストレスがかかることで生じる組織損傷(痛み)を修復する反応 

このような身体の反応を一般的に炎症と呼びます. 

風邪・インフルに罹った場合が①であり,加齢やオーバーユース(過剰使用・過剰負担)による膝や腰,手の痛み腫れなどが②に該当すると考えると分かりやすいと思います. 

炎症反応は,身体が損傷や感染に対して自己修復する為の重要なプロセスですが,制御されない炎症は不調の原因となるため,適切な対処が必要となります. 

このブログでは,主に②を念頭に,過剰使用や過剰負担で継続的に加わり続けることで生じる炎症反応の理解とアイシングのメリットを考えたいと思います. 

炎症が生じた部位では,どのような事が起こっているのか? 

炎症の特徴的な徴候は,ケルススの4徴候として知られている発赤(赤み)・熱感腫脹(腫れ)・疼痛(痛み)ですが,機能障害も特徴の一つとして挙げられます.

炎症が起こっている部位では,次のようなことが起こっていると考えられます.

  • 血管の拡張:
    血流を増やし,免疫応答に必要な白血球や栄養素を損傷部位に運びます. 
  • 透過性の増加:
    血管の壁が透けるようになり,免疫細胞やたんぱく質が組織間の液体に移動しやすくなります. 
  • 白血球の移動:
    白血球が血管から組織に移動して,損傷や感染の原因となる要因を取り除きます. 

炎症の目的が組織の回復にあると考えると,尤もな反応であり理解しやすいですね. 

炎症反応に於いて,白血球は以下のように様々な働きをします. 

上に於いても挙げたように炎症部位には血管から白血球が集まってきますが,要因を排除するだけでなく白血球には他にも大切な働きをがあります.

  • 「食作用」によって菌・ウィルスを取り込んで排除する. 
  • 「炎症メディエーター」といって炎症反応を促進・調節する物質を放出する. 
  • 傷害や感染によって死んだ自身の細胞や組織の破片を取り除く役割も果たす。 
  • 炎症の後段階では、白血球の一部が組織の修復や再生を促進する物質を放出することがある。
炎症には大きく分けて以下の2つのタイプがあります: 
  • 急性炎症: 短期間(数時間から数日)にわたって発生する炎症反応です。感染,外傷,やけどなどが原因で起こります.特徴としては,上述の徴候(赤み,熱感,腫れ,痛み)が顕著に現れることが多いです. 
  • 慢性炎症: 長期間(数週間から数年)にわたって続く炎症反応です.自己免疫疾患,特定の感染症,長期間の刺激などが原因で起こります.慢性炎症は,組織の損傷と修復が繰り返され,時には組織の変性や瘢痕形成を引き起こすことがあります. 

慢性炎症に移行してしまう原因には次のようなものが考えられます.

  • 持続的な弱い刺激の存在
  • 毒性を有する物質への暴露
  • 自己免疫性疾患の存在
  • 再発する急性炎症
  • 免疫システムの栄養素利用

組織損傷・炎症を起こした部位へのアイシングのメリットは何か? 

適切にアイシングを行うことで,次のような効果が期待できます. 

  • 痛みの軽減: 適切な冷却は痛みを和らげる効果があります。 
  • 腫れの抑制: 冷却によって血流が減少し、組織の腫れを減少させることができます。 
  • 炎症の抑制: アイシングは炎症の進行を遅らせることができます。 
  • 筋肉の緊張の緩和: 緊張した筋肉に対する冷却はリラックスさせる効果があります。 

アイシング(冷却治療)が炎症を抑制するメカニズムとは? 

アイシングの炎症に対する作用は以下のようなものが挙げられます. 

  • 血流の減少: 冷却により、患部の血管が収縮します。これにより、その部位への血流が一時的に減少し、炎症を引き起こす物質や白血球の流入が抑制されます。この効果は、冷却を止めた後しばらく続きますが、その後血管は再び拡張し、血流は増加します。この後の血流増加は、修復物質の供給や老廃物の排出を助ける可能性があると考えられます。 
  • 代謝活動の低下: 細胞の代謝活動は温度に依存しており、温度が下がると活動が低下します。これにより、炎症の進行を助けるさまざまな生化学的反応が遅くなり、炎症の程度が軽減される可能性があります。 
  • 疼痛の軽減: 冷却は神経伝達を遅らせ、疼痛を感じる閾値を上げることが知られています。これにより、患部の疼痛が軽減されることが多いです。疼痛が軽減されると、過度な炎症の原因となる不要な運動やストレスを避けることが容易になります。 
  • 浮腫の減少: 冷却による血管の収縮と組織の代謝低下は、浮腫(腫れ)の形成を抑制する効果も持っています。浮腫が減少することで、炎症の症状が軽減されるとともに、さらなる組織へのダメージのリスクが低下すると考えられます。 

【アイシング後の血流増加】について
アイシングによって冷やされた損傷部位は一時的に血流量が減少します.その後は冷却された部位を元に戻そうとするリバウンド反応により,血流は増加に転じます.このアイシング後の血流増加には次のようなメリットがります.

  • 老廃物質の排出
    血流が増えることで,筋肉などの組織内に蓄積した乳酸などの老廃物質が患部から取り除かれやすくなります.これによって,筋肉などの組織の疲労回復が促されます.
  • 栄養素と酸素の供給
    血流が増加することで,組織の修復・回復に必要な栄養素や酸素が患部に運ばれやすくなります.
  • 炎症反応の抑制
    冷却することで一時的に患部の血流は減少しますが,これは患部(損傷部位)の腫脹や疼痛を抑制する事に役立ちます.その後,リバウンドにより患部の血流は増加し,これにより組織の修復は促されると考えられます.

以上のような作用で,アイシングは炎症に対する効果をもたらすと考えられています.アイシングは正しいタイミングと方法で行う必要があり,過度の冷却や不適切な使用は逆に組織のダメージを引き起こしたり,回復を遅らせるリスクがあります. 

アイシングの方法 

  • 氷を布に包む: 直接氷を皮膚に当てることは避け、氷嚢や保冷剤をタオルなどで包んで使用します。あまり冷たくせずに,ジワジワと冷えるくらいで十分です. 
  • 適用時間: 通常、15分間のアイシングを推奨します。それ以上長くすると、冷凍傷のリスクが増えます。 
  • 休憩を取る: 1回のアイシングの後、同じ部位に再びアイスを当てる前に、少なくとも1時間の休憩を取ります。 
  • 感覚を確認: アイシング中に痛みしびれを感じる場合は、すぐに冷却を停止します。 

注意点: 

  • 冷凍傷を防ぐため、直接皮膚に氷を当てないようにします。 
  • 既存の循環障害や感覚障害がある場合、医師のアドバイスを受けるか、アイシングを避ける必要があります。 

「一般にアイシングを避ける方が良い」と考えられる疾患にはどのような疾患がありますか? 

アイシング(冷却治療)は多くの状況で有効ですが、一部の疾患や状態では適切ではない、または注意が必要です。以下はアイシングを行わない方が良いと考えられる疾患や状態の例です: 

  • 冷感受性障害: レイノー病や他の冷感受性の疾患を持つ人は、アイシングによって症状が悪化するリスクがあります。 
  • 循環障害: 末梢循環が不良な場合、アイシングは皮膚や組織の損傷を引き起こす可能性があります。 
  • 知覚異常: 糖尿病性神経障害や他の知覚障害を持つ人は、冷却による損傷を感じ取れない場合があるため、アイシングに注意が必要です。 
  • 凍傷のリスク: すでに寒冷な環境にさらされている部位や、過去に冷凍傷を経験した部位には、アイシングの際に特に注意が必要です。 
  • 関節リウマチ: アイシングは関節リウマチの急性発作時には炎症や痛みの軽減に役立つ可能性がありますが、一部の患者では冷却によって症状が悪化することがあるため、注意が必要です。 
  • 感染症: アイシングは感染部位の血流を減少させる可能性があり、治癒の過程を遅らせるリスクが考えられます。 
  • クローン病や潰瘍性大腸炎: これらの慢性的な炎症性腸疾患の患者は、一部の研究でアイシングが症状の悪化を引き起こすことが示唆されているため、注意が必要です。 

上記の疾患や状態の他にも、アイシングが適切でない場合が考えられます。症状や状態について不明点や不安がある場合は、医師や専門家に相談することをおすすめします。 

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