緑内障と鍼治療 – 鍼でどのようなサポートが可能なのか

ライラック治療室

緑内障ってどのような病気なのか

緑内障の定義

「視神経と視野に特徴的変化を有し、通常、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患である」

日本緑内障学会ガイドラインでは以上のように定義されています.

「眼圧によって視神経が傷害される」とはどのようなことなのか,少し考えてみたいと思います.

視神経の機能と眼圧

視神経は「みる」という機能(視覚)に於いては中心的な役割を担います.神経も細胞によって構成されていますから,血液供給が円滑に行われることでその役割をきっちりと果たすことが出来ます.

眼圧が上がるということは眼球内から外側に向かう圧力が上昇するということ,簡単にいうと眼がぱんぱんになるということです.

眼球内の視神経が集まり眼球の外へと向かう点を視神経乳頭といいますが,眼圧の影響で緑内障になるとこの乳頭部に異変が生じます.眼圧を降下させることで乳頭周囲や視力にとって大切な黄斑部の血流が改善することが報告されています.

網膜や脈絡膜は眼球の内壁に張り付いたように位置していますから,圧力を受けると圧迫されてしまいます.網膜の視神経も直接に圧迫されますし,網膜の視神経に血液を介して栄養供給をしている脈絡膜内の血管も圧迫されてしまうため,視神経への血液供給が不足します.この網膜微小循環の不良も視神経の機能を害する一因と考えられます.

さまざまな緑内障

原発閉塞隅角緑内障  隅角というのは眼圧上昇の原因である房水の排出経路とでも考えるとわかりやすいかと思います.専門的には角膜と虹彩の成す角度を意味し,この角度が小さくなると排出路が狭くなるため,房水が流れにくくなります.房水が過剰に貯留するため眼圧が上昇するため視神経が傷害されたものを原発閉塞隅角緑内障といいます.用語が難しいですよね.
生まれつき隅角が狭い,加齢の影響で隅角が狭くなるなどのケースが想定されます.

加齢による水晶体の影響は,混濁・硬化・肥大などがあります.水晶体の柔軟性が低下し大きくなることで隅角が狭くなり隅角が閉塞するということです.

「原発」というのは「他の病気が原因ではない」という意味です.これに対し他の病気が原因の場合を「続発」緑内障といって,ストロイド薬によるもの,糖尿病によるもの,眼の外傷など様々なものがあります.

原発開放隅角緑内障 隅角が狭小閉塞していないけれど,線維柱帯という排水口のフィルター状の組織が通過障害を起こすことで眼圧が上昇するものを開放隅角緑内障といいます.

開放隅角の中で眼圧が上昇していないもの,言い換えますと,眼圧は正常範囲なのに「視神経と視野の特徴的な変化が進行する」ものを正常眼圧緑内障と呼んでいます.正常眼圧とは病気にならないという意味ではなく,「多くの人がその位の眼圧です」という意味です.多くの人には影響がない眼圧であっても,視神経が弱かったり,老化で血管の機能が低下する,眼内血管が元々細いなどの理由で視神経が傷害されてしまうことがあるということです

これに対して眼圧が高いのに視神経と視野の特徴的な変化がなく,緑内障にならないものを高眼圧症といいます.高眼圧症の場合,5年後には1割ほどが緑内障を発症するそうです.正常眼圧緑内障の方よりも神経や脈管がタフなのでしょうか?緑内障ではありませんが,眼圧を下げる治療をすることで5年後に緑内障になっている率は半減するそうです.

続発緑内障とは他の疾患(原因)のために眼圧が上昇し緑内障を発症するものです.ぶどう膜炎続発緑内障,落屑緑内障,ステロイド緑内障,血管新生緑内障などがあります.線維柱帯が影響を受けて眼圧が上昇してしまいます.

血管新生ということで新生血管緑内障と加齢黄斑変性の滲出型はどう違うのか?と質問されたことがあるので,余談ですが少しだけ整理しておきます.黄斑とは網膜にある組織で視力が最も高いところです.この部分に血管新生などの病的変性が生じるのが加齢黄斑変性です.一方,新生血管緑内障は房水の排出経路である隅角部に血管新生が生じ,その影響で線維柱帯から房水が排出されにくくなるものです.つまり,黄斑と隅角,血管新生が生じる部位が異なります.

緑内障の進行を遅らせるために大切なこととは?リスクファクターは何か?

眼の血液循環が大切です!

既に眼圧の関連で触れましたが,眼の循環がとても大切になります.視神経の細胞もその活動に必要な血液の供給を受けて機能しますので,眼の循環を害する要因は視神経障害の進行を促すリスクとなります.代表的なものに,高眼圧,加齢,近視などがあります.高血圧は加齢と動脈硬化関連しますので高齢者にとってはリスクといえるかも知れません.以外かも知れませんが,低血圧も末梢循環が低下しますから緑内障の悪化要因となります.

近視

近視との関連については,視野と視神経の特徴的変化を進行させてしまう因子の一つです.ちょっと意外かも知れませんね?神経も細胞ですから,正常な機能を維持するためには血液の供給が不可欠.強度近視となると眼軸伸長という眼球の変形が生じ,これにより物理的に血流が悪化することで緑内障となるリスクが上昇するということです.

加齢

年齢が高くなると原発開放緑内障の有病率が高まることが報告されています.様々な理由があるのでしょうが,老化による視神経の機能低下,動脈硬化による末梢循環の低下などが関連してる可能性があります.

高眼圧

眼圧によって神経や脈管が影響を受けて機能障害が生じるものと考えられます.正常眼圧でも更に3割ほど眼圧を下げることで緑内障の進行が遅くなること,眼圧を1㎜Hg下げることで進行リスクが10%低下するなどが報告されています.

緑内障と青風内障

東洋医学では,緑内障(早期)は青風内障に相当すると考えられています.

神水しんすい(眼房水)が停滞して眼球がやや硬くなり,瞳神どうしん(瞳孔)が軽度に拡大しその色が青色になる眼疾患を青風内障せいふうないしょうといいます。眼が腫脹する,頭のふらつきは比較的軽度,眼が疲れて痛む,灯をみると回りに虹がかかる.初期には視力に問題はなく白晴はくせい(白目)・黒睛こくせい(黒目)・瞳神にも変化はない.重症になると瞳神が拡大し,その色も中等度散大になり青色になる.神水の停滞により視界不良が進む.
多くは以下のような機序で発生する.
①ストレスや過剰な怒りが肝を傷害し気鬱化火になる
②肝火に煮詰められた津液が痰になり経絡を阻塞する
③眼精疲労で肝腎陰虚かんじんいんきょとなり虚火が上炎することなどで気血が不和となり神水が停滞することで発症する

中医基本用語辞典 東洋学術術出版社

ストレスは眼圧を上昇させる要因の一つとされています.また,血管を緊張させることで血流を低下させるため,緑内障の視神経障害の進行にとってはデメリットになり得ます.血液の粘稠性の上昇も血流低下要因の一つです.

「精血同源」あるいは「肝腎同源」といって肝血と腎精は互いに滋養し合うことで血や精を生成しています.疲労やストレス,慢性疾患などの影響で両者のバランスが失調すると内熱が生じ擾乱じょうらんすることで肝気の疏泄機能や腎の造精機能を減退させてしまう…これが肝腎陰虚です.

精は髄を通して脳に影響しますから,視覚にも影響することになります.

針灸の臨床では,上の様な要因がどの経脈に影響を及ぼしているのかを考慮して施術を進めます.

目と経脈と目系と

感覚器から入力される情報の8割を視覚が占めるといわれています.多くの情報を視覚に依存していると言っても良いかも知れません.東洋医学では気・血・津液が経絡を通して巡ることで身体各所を滋養し,これによりそれぞれの器官も正常な機能を保つことが出来ると考えられています.

視覚は視神経の働きだけでなく様々な眼球付属器によって支えられています.故に,様々な経脈が眼の周囲に接続しています.

目の周囲に繋がる経絡-ライラック治療室
目の周囲に繋がる経脈

足陽明胃経は瞳孔直下の承泣穴,足太陽膀胱経は目内眥(内眼角)の睛明穴,足少陽胆経は目鋭眥(外眼角)の瞳子膠穴から始まります.

手太陽大腸経は迎香穴から山根穴をへて胃経で瞳孔直下にある承泣穴へ,手太陽小腸経は支脈が目鋭眥目内眥へ,手少陽三焦経は目鋭眥の糸竹空へと至っています.

奇経では,陰陽の蹻脈はともに目内眥へ,督脈は両眼の下中央へ,任脈は眼窩の下に至っています.

このように様々な脈が目と繋がっていますから,目の健康を考える上で経脈の機能を正常に保つことは至極肝要であります.

視神経と目系

視覚の中でも重要な役割を果たすのが視神経.視神経も細胞により構成されいるため血液が十分に供給されなけれが十分なパフォーマンスを発揮することが出来ません.東洋医学では,視神経とそれを滋養する脈管に相当する「脳と眼を連絡する脈絡みゃくらく」を「目系もくけい」とか「眼系がんけい」「目本もくほん」などと呼んでいます.

緑内障は眼圧によって視神経が傷害される疾患ですから,目系を滋養することが肝要であると東洋医学では考えられています.

目系と繋がる経絡-ライラック治療室
目系に繋がる経脈

目系に繋がる経絡には,足厥陰肝経,手少陰心経,足陽明胃経,足太陽膀胱経,足少陽胆経があります.

足厥陰肝経は本経が,手少陰心経は本経の支脈と絡脈が,足陽明胃経は絡脈と経別が,足太陽膀胱経は絡脈が,足少陽胆経は経別がそれぞれ目系と繋がっています.足厥陰肝経は本経が繋がっていますから,やはり肝と目の密接な関係性が窺い知れます.これらの経絡を健やかに維持することが緑内障の進行に抵抗するには大切かと思います.

視神経とその脈管に相当する目系には,経絡からの気血津液の滋養が不可欠です.理由はどうあれ,これらが滞ると視神経の傷害は進行してしまいます.肝気には疏泄といって全身の気機を調節する働きがあります.精血津液の運行や脾胃の運化などはこの働きの影響を受けます.ストレスなど情志の影響でこの働きが乱れると鬱結や痰が生じ経絡の伸びやかな流れが阻害されて目系が十分に滋養されなくなってしまいます.

体質や老化の影響により精血が不足すると,経絡は虚となり目系を滋養する機能が低下します.視神経の萎縮などとの関連が深いと想定されています.

施術に際しては,どの経絡が大きく影響されているのかを確認し,経穴の穴性を考慮しながら配穴することになります.

Q&A

Q.緑内障に対してどのような効果が期待できるのか?

眼の血流改善と眼圧を少し下げる効果が報告されています.

血流の改善に関しては自律神経による血流調節(交感神経の抑制)作用もあるでしょうが,血管内皮細胞からのNO分泌も促されます.動脈硬化に少しでも抵抗したいものです.

Q.どのような場合に鍼を受けると良いのか?

  • 眼科で治療を受けているが,思うように眼圧が低下しない
  • 眼圧は安定しているが,視神経の状態が芳しくない

ライラック治療室ではこのような状態で受診される患者さんがほとんどです.眼科で定期的に診察検査を受けていただき状態を把握しながら施術します.

状態が安定するまでは週に1~2回ほど集中的に施術します.状態が安定してくると施術頻度を少しずつ下げながら落としどころを探ります.緑内障は「治る」「治癒する」病気ではありません.長いお付き合いになりますので,状況を確認しながらメリハリをつけて取り組むことも大切かと思います.

正常眼圧緑内障の場合でも,眼圧を1㎜Hg下げることで進行リスクが10%低下すること,眼圧を30%下げることで進行が遅くなることが報告されています.状況が芳しくない場合には早期の内から総力戦で臨み進行に抵抗することが大切です.

Q.強度近視の緑内障の方などはいますか?

10年ほど進行が止まっている方が複数います.まぶしさに敏感,眼精疲労が強い,慢性頭痛などの症状があり,40代で緑内障の診断を受け眼科に通院しながら鍼を併用されています.鍼治療を開始して数ヶ月後から,眼圧,視野,診察所見など進行が止まっています.

Q.正常眼圧緑内障しか施術しないのですか?

いいえ,眼圧が高い方でも施術しています.
眼圧が高いケースでも眼圧を下げることを目的に薬剤治療を受けてる方は,鍼を併用されているケースは普通にあります.眼精疲労や肩こり,頭痛といった症状がある方などは症状の緩和が期待できます.ストレス睡眠不足は眼圧を上昇させる要因とも言われていますので,鍼を併用することで身体への影響が緩和される可能性があります.

高眼圧症の方などは普通は症状がないですから,眼精疲労や慢性頭痛の患者さんの中に普通に含まれているかも知れません.緑内障の発症を防ぐためにという意識の高い方がいらっしゃいましたら是非お越し下さい.

Q.緑内障の鍼治療で注意していることはありますか?

眼圧には日内変動もあるので常に一定ということはないのですが,やはり敏感な方もいます.このような場合には施術の体位(姿勢)には気をつけています.眼科の受診はサボらないように注意喚起を促しています.あと,眩しさを訴える方もいるので施術コーナーの照明は間接照明に出来るようにしています.

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