はじめに
「毎月の生理痛がつらいけど、体質だから仕方ない…」
「薬を飲めば何とかなるから」
そんなふうに我慢している方は少なくありません。
しかし、強い生理痛はただの「体質」ではなく、月経困難症と呼ばれる病気の可能性があります。我慢せず、適切にケアすることで日常生活は大きく改善できるのです。
月経困難症とは?
月経困難症とは、生理にともなう痛みが強く、日常生活に支障をきたす状態を指します。
主な症状
下腹部痛・腰痛
吐き気、下痢、頭痛
発熱、全身のだるさ
「学校や仕事を休むほどの強い痛み」 「毎月鎮痛薬を飲まないと動けない」「生理が来るのが憂うつで仕方ない」という方は、月経困難症の可能性があります。
月経困難症の種類と原因
大きく分けて2つのタイプがあります。
🌀 機能性月経困難症
ホルモンバランスの乱れ
自律神経の不調
血行不良や冷え、ストレス
→ 思春期から若い世代に多く見られます。
🌀 器質性月経困難症
子宮内膜症
子宮筋腫
子宮腺筋症 など
→ はっきりとした病気が背景にあるケースです。
このように、「原因によって対応方法が変わる」ため、正しい理解と適切なケアが必要です。
器質性月経困難症とは?
◉ 子宮内膜症
本来は子宮の内側にあるはずの「子宮内膜組織」が、卵巣や腹膜など子宮の外にできてしまう病気です。
生理のたびにその組織も出血して炎症を起こし、強い生理痛や慢性的な下腹部痛を引き起こします。不妊の原因になることもあります。
◉ 子宮腺筋症
子宮の筋肉の中に、子宮内膜組織が入り込んでしまう病気です。
子宮が全体的に厚く硬くなり、月経時に強い痛みを生じやすく、経血量が増えることも特徴です。30〜40代の女性に多く見られます。
◉ 子宮筋腫
子宮の筋肉にできる良性のこぶ(腫瘍)です。
大きさやできる場所によっては、月経痛が強くなったり、経血量が多くなったりします。貧血の原因になることもあります。
まとめ表
疾患名 | 特徴 | 症状の傾向 |
子宮内膜症 | 子宮の外に内膜様組織ができる | 強い生理痛、不妊、慢性下腹部痛 |
子宮腺筋症 | 子宮の筋肉内に内膜様組織ができる | 激しい痛み、経血量増加、子宮が硬く肥大 |
子宮筋腫 | 子宮の筋肉にできる良性腫瘍 | 月経痛、過多月経、貧血 |
鍼灸で期待できること(現代医学的理解)
鍼灸は特に 機能性月経困難症 に効果が期待できます。
鍼灸の働き
骨盤内の血流を改善する
自律神経のバランスを整える
冷えやストレスからくる緊張をやわらげる
痛みの閾値(しきい値)を上げ、鎮痛薬に頼りすぎない体づくりをサポート
「薬で痛みを抑える」だけでなく、根本的に体質を改善する方法として注目されています。
中医学における「痛経(つうけい)」の捉え方
1. 基本的な考え方
- 月経は「気血(エネルギーと血)」の流れが順調であれば円滑に起こる。
- 気血の流れが滞ったり、不足したりすると「痛み」となって現れる。
- よって、痛み=気血の不調和のサイン と考えます。
2. 主な病機(原因パターン)
◉ 気滞血瘀
- ストレスや感情の停滞で「気」が滞り、血の流れも悪くなるタイプ。
- 特徴:周期前から張ったような痛み、胸や脇の張り、イライラ、経血に血塊が多い。
◉ 寒凝胞中
- 冷えが子宮(胞宮)に侵入して血行が悪くなるタイプ。
- 特徴:冷えると悪化、温めると楽になる、経血が暗い・塊がある。etc.
◉ 気血両虚
- 体質的に気や血が不足して子宮を温め動かす力が弱いタイプ。
- 特徴:鈍い痛み、疲れやすい、顔色が悪い、経血量が少ない。etc.
◉ 肝腎虚損
- 長年の病や出産・加齢などで肝腎(生殖や血の根源)が弱るタイプ。
- 特徴:周期の後半に痛む、腰や膝のだるさ、不妊傾向。etc.
◉ 湿熱下注
- 余分な水分と炎症的熱が下焦に降りて停滞した状態
- 特徴:下腹部の灼熱感を伴う痛み。普段から下腹部に痛みがあり月経時に増悪。経血の色が濃く粘り、血塊が混じる。帯下(おりもの)の黄濁。etc.
3. 治療の基本方針
- 気滞血瘀 → 気血を巡らせ、瘀血(血の滞り)を解消する。
- 寒凝胞中 → 温めて寒邪を取り除く。
- 気血両虚 → 気血を補い、子宮を養う。
- 肝腎虚損 → 肝腎を補って血脈を整える。
- 湿熱下注 → 熱を冷まし湿をさばき、血の滞りを取って経絡を通す。
※湿熱下注は炎症的な熱の存在が疑われる病態で、現代医学的には器質性月経困難症に相当するケースが多いです。湿熱下注に相当する場合は、単なる冷えやストレス性の痛みとは異なり、鍼灸単独よりも婦人科での診断を受けた上での併用が安心です。
鍼灸では体質に合わせて、上の状態を改善し得る効能(穴性)を有した経穴を選び施術します。
また、箱灸やセラミック灸といった温灸で温めることも多いです。
まとめ
- 中医学では月経困難症を 「痛経」 として捉える。
- 病機は大きく「滞り」「冷え」「不足」「虚損」に分類できる。
- 体質に応じて鍼灸で 巡らせる・温める・補う を行い、根本改善を目指す。
セルフケアと鍼灸の違い
生理痛のとき、みなさんはこんなケアをされているかもしれません。
お腹や腰を温める
軽い運動やストレッチ
バランスのよい食事
リラックス時間を取る
これらはとても大切ですが、症状が強い場合には十分でないこともあります。セルフケアを行っても痛みをコントロール出来ない場合には鍼灸をご検討ください。
鍼灸は体のツボを使って 全身のバランスを整え、血流・自律神経・ホルモンの調整を同時にサポートできる点でセルフケアとの違いがあります。
医師への受診が必要なケース
次のような症状がある場合は、鍼灸だけでなく必ず婦人科を受診してください。
生理以外のときにも下腹部が痛む
経血量が極端に多い、レバー状の血の塊が多い
出血が長引く、生理以外の時期に出血する
妊娠を望んでもなかなか授からない
これらは子宮内膜症や子宮筋腫など 器質性の病気が隠れている可能性があるため、医師による診断が欠かせません。
鍼灸と婦人科の併用がおすすめ
鍼灸と婦人科は「どちらかを選ぶ」ものではありません。
●婦人科:病気の有無を診断し、必要な治療を行う
●鍼灸 :体質改善や痛みの緩和をサポートする
両方を組み合わせることで、安心して長く健康を守ることができます。
まとめ
強い生理痛は「月経困難症」という病気のサインかもしれません。
機能性の場合は鍼灸でのケアが効果的です。
器質性の可能性がある場合は婦人科受診が必要です。
「鍼灸+婦人科」の併用で、安心と快適な生活を取り戻せます。
「仕方ない」と思ってきた痛みも、正しく対処すれば改善できる可能性があります。
気になる症状がある方は、ぜひお気軽にご相談ください。