慢性的な頭痛と鍼灸での対処

頭痛の鍼治療 ライラック治療室
慢性頭痛の痛みの緩和と頭痛日数の減少に貢献します

実際に経験した個人的な慢性頭痛の経験談

一部の特殊な癖のある方を除き,例えどのようなものであっても痛みは逃れたいものの一つかと思います.朝目覚めたときに頭痛がすると,それだけでうっとうしく様々な負の感情に苛まれる.過度のストレスや負の情動は痛みの慢性化に関与するいわれますが,痛み自体がストレスだったりします.まぁ,悪循環というか負のスパイラルとでも呼ぶのでしょうか?

わたくしは個人的に数年間にわたり眼を含めた頭痛に苛まれた経験があります.



 その痛みは眼の症状と共に発症した.

「うっ!何だこれ?」
 当時ある国家資格の二次面接試験に向けて勉強中だった俺は,急に視界にぶちぶちと出現し始めた黒いドットに茫然自失となる.
「こんなの見たことない」
 同時に眼球と側頭部・後頭部に痛みがはしる.

 冷静さを失った俺は,とりあえず数分ほど目を閉じて座っていた.現実を無視することでやり過ごそうとする防衛本能だ.
 だが,無情にもドットが消えることは無かった.結果は目を開ける前から分っていた.まぶたを通して感じられるほのかな光,そこにも黒いドットが地獄谷の煮えたぎる泡のように現れては消えていた.
「駄目だ」
 戦慄を感じた俺は,慌てて布団にも潜り込み光を遮断し只管逃げることで恐怖感をやり過ごした.

 眼科で検査を受けた俺は,高眼圧・視神経乳頭陥凹・視野欠損を指摘された.
「眼圧を下げるための手術が必要になるかも」
「いやいや,No, Thank you で!絶対に嫌っすよ!」

 処方されたのは点眼薬だけで鎮痛剤がない.
「あのぅ,死ぬほど頭が痛いんで痛み止めが欲しいんですけど」
「あぁ,君には必要ないね.この点眼薬も高価なものだから…」

 何やら含みを察した俺は,その場を辞して別のクリニックを目指す.
 だが,何処も対応は五十歩百歩.結局,俺は痛み止めを入手することは出来なかった.

 知り合いの内科医に頼み込んで,Nsaids や acetaminophen を試すが毒にも薬にもならずだった.

 点眼薬の効果により眼圧は20代前半まで下がった.だが,肝腎の痛みは全く減少することは無かった.この頃には,個人輸入を覚えて様々な鎮痛剤を入手するようになっていたが,「これはっ!」というものには巡り会えなかった.

朝目覚めると真っ先に飛び込んでくる感覚が頭痛である.実に不快.負の情動に苛まれつつも生きてゆくために働かなければならない…

俺は数年間こんな日々を過ごした.


鎮痛剤が何故効かないのか?眼圧が下がったのに何故痛みが軽減しないのか?などと,理不尽さに気分が滅入ったものです.

今考えると,下降性系抑制系という痛みの抑制システムに密接に関係する中脳辺縁系ドーパミンシステムの中核神経核であるNAcが,負の感情というストレスによって機能障害を起こしていたのかも知れません.

今現在は,ほとんど強い痛みに襲われることはありませんが,恐怖感が心に染みこんでいますので,NSAIDs やオピオイド鎮痛薬は常に手元に置いています.経験的にあまり効かなかったのですが,気休めというか御守みたいな感じですね.

薬神様を信仰しているわけではありませんが.

慢性頭痛にはどのようなタイプがあるのか?

慢性頭痛には,緊張型頭痛・片頭痛・群発頭痛その他などいくつかのタイプが存在しますが,全てを併せるとその年間有病率は40%足らずに昇ります.内訳を見てみますと,緊張型頭痛は22.3%,片頭痛は8.4%,その他頭痛が9.0%(内群発頭痛は0.1%)となります.その他頭痛の多くは,二次性頭痛といって,脳疾患や頭部外傷,耳鼻科や眼科の疾患に由来する頭痛,鎮痛剤の過剰使用に由来する頭痛となります.

4割弱の方が一年間に何らかの慢性的な頭痛を経験するってすごいですね.

緊張型頭痛

緊張型頭痛は,要因として生活スタイルが関わっていることが多く,長時間のデスクワークや運動不足,肥満や喫煙などと関連が指摘されています.眼精疲労に由来する頭痛は,この緊張型に属することが多いかと思われます.

顎の運動に関わる側頭部の筋肉や後頭部の僧帽筋・頭半棘筋・頚板状筋・小後頭直筋・大後頭直筋などが筋緊張を起こして圧痛点などが生じます.中には筋膜上に索状硬結と呼ばれるコラーゲンの変性がおこり局所の圧痛に留まらず,離れた部位に関連痛(referred pain)を引き起こすものもあります.これを鍼灸の世界ではトリガーポイントと呼んでいます.頭痛診療ガイドライン2021では,myofascial trigger points として紹介されています.

myofascial とは,fascia(筋膜)の形容詞で「筋膜の」という意味です.fascial(筋膜の)と同じ意味です.fascia は筋膜と訳されますが,単に筋肉を包む膜を指すのでは無く,筋肉,骨,神経,内臓,血管など様々なものを包む結合組織を指します.

末梢の関与
発症の頻度が高い緊張型頭痛ですが,痛みのメカ二ズムに関してははっきりしないことが多いのも事実です.姿勢不良などで筋肉に負担がかかり緊張が高まると神経伝達物質が放出され,それが発痛物質の誘発につながる.これにより末梢性感作といって痛みに過敏な状態となります.

中枢の関与

  • 脳幹からの指示で痛みを抑制する下降性抑制系の機能が低下することで中枢感作が生じ,痛みに敏感になる.(感作とは同じ刺激なのに反応性が増大することで,敏感になること)
  • 運動しても肩凝りの筋肉として知られている僧帽筋の血流量が増えないことから,中枢神経系の過剰興奮による交感神経性血管収縮が関与していると考えられている.
  • 電気刺激で疼痛感度が増大することから,中枢神経系の痛み感覚処理の異常が指摘されている.

片頭痛

片頭痛とは,その痛みの発症に三叉神経と脳の血管の炎症拡張が関わる発作性反復性の頭痛です.誘因として,ストレス,睡眠不足,気圧の変化,ホルモンバランスの変化,アルコール,光や臭いなどが挙げられています.

脳を包む硬膜に分布する三叉神経末端からの神経ペプチドの放出が起こり、放出された神経ペプチドによる硬膜動脈の拡張や硬膜の炎症により特有の頭痛が引き起こされます.

片頭痛は,中枢神経処理の異常(脳幹核の活性化,皮質の過興奮,皮質拡延性抑制)および三叉神経血管系の関与(神経ペプチドの放出を誘発することにより,頭蓋内血管および硬膜に疼痛を伴う炎症を引き起こす)を伴う,神経血管性の疼痛症候群と考えられているようです。

片頭痛を誘発しうる因子が数多く同定されており,頭痛診療のガイドラインでは以下のものが挙げられています:

  • ストレス 79.7%
  • 女性ホルモン 65.1%
  • 絶食 57.3%
  • 天候 53.2%
  • 睡眠障害 49.8%
  • 香水やにおい 43.7%
  • 頸部の痛み 38.4%
  • 光 38.1%
  • アルコール 37.8%
  • 煙 35.7%
  • 夜更かし 32.0%
  • 暑さ 30.3%
  • 食品 26.9%
  • 運動 22.1%
  • 性的活動 5.2%

誘因となる食物は人によって異なる。絶食や天候,におい,煙,暑さなどは考えようによってはストレスとも考えられますから,ストレスの関与は数字以上に大きいかも知れませんね.

薬物乱用頭痛

薬物(鎮痛剤)の過剰使用による頭痛(薬物乱用頭痛)の有病率は2.3%です.「今日は予定があるから予防的に服用しておこう」とか「悪化すると嫌だから少しの痛みでも服用しておこう」など慢性頭痛に悩む方の不安が薬の過剰使用の原因となることが多いようです.過剰に服用するとなぜ頭痛が起こるのかについては未だ不明のようです.例えば,関節リウマチの痛みに悩む方の場合ではあまり薬物乱用頭痛にならないなどという事実も興味深いですね.

東洋医学で考える頭痛の部位と経絡

頭痛の部位と経絡

痛みは経脈の不通により生じることが多いため,鍼灸では痛みの部位と経絡を関連づけて考えることがあります.

太陽は後頭部から後頚部にかけての痛み
陽明は額部の痛み
少陽は側頭部の痛み
太陰は頭部を外から包み込むような痛み
少陰は下から脳を突き上げるような痛み
厥陰は頭頂部の痛み

部位と痛み方の特徴で関与する経絡を認識していたようです.

東洋医学では頭痛の要因をどのように考えるのか?

東洋医学における頭痛の要因の整理 in ライラック治療室
東洋医学における頭痛の要因

要因はいろいろとありますが,多くは経脈の気血の流れが滞りことで痛みが生じると考えて良いかと思います.正気不足は,体質・疾患・過労などが原因で気血の生成が不足することで起こります.髄海である脳が十分に滋養されないために頭痛がおこります.

不動

不動とは少しわかりにくいかも知れませんが,デスクワークなどを想像すると理解しやすいかと思います.気血の流れが滞りだけでなく,原因が仕事であると常態化してしまうため現代医学的には線維化が促されます.このことが気血の滞り・経脈の阻滞を引き起こし痛みの原因となります.勿論,デスクワークやWeb会議などが情志の失調に繋がることは想像に難くないかと思います.

外邪による頭痛

外邪による頭痛は,急性的であることが多いようです.
頭痛に関係する邪としては,寒・熱・湿との関わりが挙げられます.これらの邪は風(邪)と結びつくことで体内に広く影響することもあります.いずれの邪についても,経脈が不通になることで痛みが生じます.

は陽気を損傷しやすく,凝滞性・収引性という性質があります.凝滞性により気血のめぐりが滞り,収引性によって経脈が収縮するためさらに滞ります.

は気・津液を損傷しやすく,体液の粘稠性を増加させてしまいます.このため気血の運行が滞ります.

湿には粘膩,重濁の性質がありこれが気血の運行に影響を及ぼします.

外傷

外傷によって瘀血が生じることで気血の滞りが生じます.

飲食不節

想定されているのは暴飲暴食です.これが脾胃を損傷することで痰湿が生じ,この痰湿が経脈を阻滞されて頭痛となってしまいます.

情志の失調

過度の憂慮とか怒りといった感情,換言するとストレスでしょうか,によって気鬱が生じます.これにより肝火が上行し,あるいは陰血を消耗することで頭痛が生じます.

正気の不足

先天的に腎精が不足していれば髄が不足し脳を濡養できなくなり頭痛となります.

体質・持病・過労・不摂生により脾胃を損傷すると気血が不足し,脳の濡養が出来なくなり頭痛となります.

鍼灸治療のメリットと何だろうか?

慢性頭痛の治療は緊張型頭痛・片頭痛ともに,急性期の鎮痛や予防を目的に薬剤による治療などが行われています.しかしながら,十分な効果が得られない場合や副作用が気になり薬剤の服用に前向きになれないといったケースはあろうかと思います.また,薬剤の過剰使用による頭痛の場合には,薬物の使用を中止したり減らしたりしなければなりません.過剰に使用するようになった背景を考えると単に減らすことは当人にとっては難しいことかも知れません

このよう場合には鍼治療がお役に立てる可能性があります.

鍼はガイドラインでも取り上げられている

頭痛診療ガイドラインでも,鍼治療は片頭痛や緊張型頭痛の痛みを緩和すること,薬剤との併用あるいは単独の介入で頭痛の日数が減少することなど,治療的・予防的な意味で可能性があることが記されています.また,痛みを緩和し頭痛の日数を減じることが可能ならば,薬剤の過剰使用による頭痛の予防や治療として薬剤の使用を減少させる際にも役立つかと思います.

慢性痛の場合には,中枢の痛み抑制システムの機能低下が関係しているともいわれます.鍼治療は疼痛緩和機序の一つに下降性抑制系と呼ばれる疼痛抑制システムの賦活があります.このため,薬剤とは異なった機序で慢性頭痛の緩和に貢献する可能性があります.

慢性頭痛は複合的に起こっていることも

これは片頭痛の方であっても同時に緊張型頭痛が起こる場合があるということです.頭部や頸部の筋の筋膜にトリガーポイント(myofascial trigger points)が生じると,その部位の痛覚レセプターが異常興奮してしまい関連痛(referred pain)が生じることもあります.これ自体も頭痛に限らず慢性疼痛の原因として厄介なものの一つです.鍼治療はこのトリガーポイントの不活性化に有効であることは古くから研究されています.

薬剤と併用する際のメリット

慢性疾患に長期に渡り薬剤を使用する際に考慮しなければならないことに,副作用が挙げられるかと思います.使用する薬によって様々な副作用があることについては専門家に委ねますが,服用した薬は分解されて排出されますから長期に使用することで肝腎に負担をかけることは避けられません.

鍼治療が血流を改善することはよく知られていますが,それは筋肉に限った話ではありません.臓器であっても同様です.臓器の機能と血流に関連があることも知られています.肝腎への血流を改善することで臓器の疲れを回復することが期待されます.

また,鍼と併用することで痛みが軽減し頭痛日数が減少すれば,薬剤の使用量の減少にもつながりますので,肝腎への負担自体が減少します.

先に述べたように,頭痛の有病率は40%にも昇り多くの人が苦しんでいる状況にあります.そしてその原因には,デスクワークやモニター作業など仕事に由来する要因が少なくありません.また、誘因としてストレスが関与する割合は非常に高いです.

これら個人の意志では回避することが難しい要因による眼精疲労や慢性頭痛は,なかなか回避が困難であるように思われます.鍼治療を取り入れながら予防と緩和を図るという考え方が一人でも多くの方に届くことを切に願います.

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