不妊症の改善にLLLT(低出力近赤外線光療法)がお勧め理由とは?
卵胞は卵巣で6ヶ月半ほどかけて成長します.
卵胞は莢膜細胞・顆粒膜細胞・卵丘細胞で構成されますが,卵子は卵丘細胞に囲まれた状態で存在します.細胞としての卵子の特徴の1つにミトコンドリアという細胞内小器官の数が多いことが挙げられます.
卵子内のミトコンドリアの数は100,000~200,000個で,通常の体細胞では300~400倍程と報告されているいます.実に,通常の体細胞と比較して数百倍ものミトコンドリアが存在しています.
ミトコンドリアの主な働きは,TCA回路によりATPというエネルギーを産生することです.いわゆる細胞内のエネルギープラントととしての働きです.細胞の活動にはこのエネルギーが欠かせません.この他にも,細胞死,ヘムの合成などにも深く関わっています.
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受精直後から活発な細胞分裂を繰り返す卵子にとってミトコンドリアは欠くことの出来ない重要な細胞内小器官です.
しかし,卵子内に存在するミトコンドリアは加齢に伴いその数が減少し,その分布も細胞質に均一に存在するのではなく斑に凝集するようになります.この様な状態になると,受精が成立しにくい,受精後の細胞分裂が継続し難いなどの状態に陥ると考えられています.
卵胞卵子の発育は初期から中盤にかけてはギャップジャンクションと呼ばれる局所の調節機構に大きく依存するとされています.つまり細胞壁に存在するギャップジャンクションというチューブ構造を通した近隣細胞同士の物質のやりとりに依存しているのです.
老化などの影響で脂質が酸化してくると脂質膜である細胞膜も影響を受けるためギャップジャンクションの機能も低下します.
加齢の影響により発育途中で消えていく卵胞が多くなり,排卵や採卵に難儀する状況に至ると考えられます.
LLLTは不妊症に対してどのような効果が期待できるのか?
LLLTが不妊症の改善・妊活にお勧めな理由は大きく分けて4つあります.
- 一酸化窒素(NO)分泌促進による血流の改善
- 光受容器(フォトレセプター)によるミトコンドリア機能改善
- 抗酸化力の向上
- 抗炎症作用の向上
1の血流の改善に関しては,①頸部にある頸部交感神経節(星状神経節など)に照射することで交感神経の過剰興奮が抑制されることで全身の血流が改善する方法と、②照射局所の血管内壁から一酸化窒素がによって血管が弛緩し血流が改善する方法とがあります.
NO(一酸化窒素)は確かに血流を改善させる効果が高いですが,不要なカ所に過剰に存在したり,細胞がNOの増加を抑えるのに必要な抗酸化力を持たない,などの場合にはミトコンドリア内でのATPの産生が抑制されることがあります.
身体に照射された赤線近赤外線は水分や筋肉・脂肪などの組織に吸収されてしまうので深部にはそれほど多くは到達しません.ターゲットとする組織の位置やそこまでにある組織の構造などを勘案しながら照射量を調節する必要もあります.
The role of nitric oxide in low level light therapy
(LLLTにおけるNOの役割)
2のミトコンドリア機能の改善については,主にシトクロムCオキシダーゼという光受容器が光子(フォトン)を吸収することで,ミトコンドリア内のATP産生が促されることで細胞の働きが改善すると言うことです.活動の基本となるエネルギーが不足すれば細胞とて働けません.また,ミトコンドリア内のポルフィリンがフォトンを吸収することでアミノレブリン酸の合成が促され,それによりヘム(heme)の合成が増加することで代謝が改善します.
3の抗酸化力の向上については,LLLTの照射により松果体外のメラトニンの濃度が上昇するため抗酸化力が向上するというものです.実際に卵胞液の中にはメラトニンが含まれており,卵胞の発育に伴ってその濃度は上昇します.メラトニンはその睡眠作用で広く知られていますが,抗酸化作用も強いのです.
4の抗炎症作用の向上は,赤線近赤外線の照射により,①抗炎症性プロスタグランディンPGE2の産生が抑制され,COX1・COX2の発現抑制,NF-kBの働きを抑えるといった作用が想定されます.炎症の長期化は組織の線維化と機能低下にも関係するので,不妊においては炎症影響は極力抑えておきたいものです.
これら4つのほかにも,細胞のイオンチャンネル(カルシウム・カリウム・ナトリウムなど)のいくつかは光の影響を受けることが判明しており,細胞内や細胞通しのイベントを促すのに関係することも分ってきています.
なぜ不妊症には継続的なLLLTの施術がお勧めなのか?
既に記しましたが,卵子と卵胞は半年以上の長い時間をかけて徐々に成長し排卵に至ります.
その過程において酸化ストレスによってDNAが損傷してしまうと,卵子であろうと精子であろうと妊娠に至らしめる力が損なわれてしまうと言うことです.原子卵胞は6か月以上かけて成長し排卵に至りますが,成長途中の卵胞はアポトーシスといって淘汰され徐々にその数を減らして排卵に至ります.
また,細胞の活動にとって不可欠なエネルギー(ATP)を産生する生殖細胞内のミトコンドリアの数は,酸化ストレスの上昇という加齢の影響により少しずつ減少していきます.通常の細胞よりもはるかに多くのミトコンドリアを必要とする卵子にとっては,その機能を改善する可能性がある手段は重要となります.
老化を阻むことは不可能ですが,高齢不妊の現状を鑑みコンスタントに卵胞の発育環境を良好に保つことで良質な卵子精子の獲得につながればと考えています.
不妊症におけるLLLTの施術頻度の目安はどのくらいか?
基本的には、1~2回/週です。
次のような場合には2回/週をお勧めします
- 月経中の基礎ホルモン値が良くない
- AMHが低い
- 年齢が高い
- 妊娠できない期間(不妊歴)が長い
- 排卵障害がある
- 胚が凍結に至らない