PCOSって,本当はどんな疾患?
妊活をしている中で,
「PCOSですね」
「排卵しにくい傾向があります」
と説明を受け,不安になった方もいるかもしれません.
特にインターネットでは,
- 妊娠しにくい
- 排卵しない
- 治らない
- 太っている人の病気
など,極端な情報も少なくありません.
しかし実際には,PCOSの状態や程度は人によってかなり異なります.
また現在では,
「単なる卵巣の病気」というより,
- ホルモン
- 代謝
- 睡眠
- ストレス
- 生活習慣
なども関係する,全身的な状態として研究が進んでいます.
今回は,不妊治療の視点から,現在分かってきているPCOSについて整理してみます.
PCOSとは?
PCOS(多嚢胞卵巣症候群)は,
- 排卵しにくい
- 月経周期が乱れやすい
- 小さな卵胞が多数みられる
などを特徴とする状態です.
超音波検査では,
卵巣に小卵胞が並ぶ「ネックレスサイン」がみられることがあります.
ただし,
「ネックレスサインがある=必ずPCOS」
というわけではありません.
診断は,
- 月経状況
- ホルモン値
- 超音波所見
などを総合的にみて行われます.
なぜ排卵しにくくなるの?
通常は,
複数育ち始めた卵胞の中から,
1つが「主席卵胞」として成熟し,排卵へ向かいます.
しかしPCOSでは,
- 小卵胞は多数育ち始める
- 途中で発育が止まりやすい
- 主席卵胞が選ばれにくい
という状態が起こりやすくなります.
その結果,
- 月経不順
- 排卵障害
- 基礎体温が不安定
などにつながることがあります.
最近は「インスリン抵抗性」が重要視されています
現在のPCOS研究で非常に重要視されているのが,
「インスリン抵抗性」
です.
インスリンは,
血糖を調整するホルモンです.
身体がインスリンに反応しにくくなると,
大量のインスリンが必要になります.
この高インスリン状態が,
- 男性ホルモン増加
- 排卵障害
- 卵胞発育異常
に関係している可能性があると考えられています.
つまりPCOSでは,
「代謝」と「排卵」が深く関係している
と考えられるようになってきています.
補足:
欧米のでは、PCOSの約50~70%にインスリン抵抗性が認められますが,痩せ型PCOSでは20~30%程度と報告されています.
日本人では欧米より痩せ型が多く、インスリン抵抗性の割合がやや低いと報告されています.
「太っていないからPCOSではない」ではありません
PCOSというと,
肥満のイメージを持つ方もいます.
しかし日本では,
痩せ型PCOS
も少なくありません.
見た目は痩せていても,
- 排卵障害
- ホルモン異常
- インスリン抵抗性
を持つケースがあります.
そのため,
「体型だけでは判断できない」
という点は重要です.
AMHが高いと言われた方へ
PCOSでは,
AMHが高値になることがあります.
AMHは,
小さな卵胞から分泌されるホルモンです.
PCOSでは小卵胞数が多いため,
AMHが高くなる傾向があります.
ただし,
AMHが高い=妊娠できない
という意味ではありません.
また逆に,
AMHが高いから卵子の質が必ず良い
とも言い切れません.
AMHは,
「卵胞数の傾向」をみる指標の一つとして理解することが大切です.
一部の基礎研究では,AMHが排卵過程に影響する可能性が示されています.
しかし,ヒトでの因果関係は確立しておらず,臨床判断に直接用いる段階ではありません.
PCOSの方は卵子の質が悪いの?
この点は誤解が多い部分です.
PCOSでは,
- 若く卵巣予備能が高い方
- 良好胚を得られる方
も多くいます.
一方で,
- 高インスリン状態
- 慢性炎症
- 酸化ストレス
などが強い場合には,
卵胞環境へ影響する可能性も研究されています.
補足:若年PCOSでは,卵質は保たれていることが多いです.
つまり,
「PCOSだから必ず卵子の質が悪い」
というわけではなく,
年齢や代謝状態などによって大きく異なる
と考えられています.
不妊治療ではどのような点が重要?
① 排卵誘発の反応が強すぎることがある
PCOSでは,
卵巣刺激に対して強く反応する場合があります。
そのため体外受精では,
OHSS(卵巣過剰刺激症候群)
に注意が必要です.
現在では,
- 刺激方法の調整
- アンタゴニスト法
- 全胚凍結
などによって,
以前より安全性は向上しています.
全胚凍結は,なぜOHSSの予防になるの?
全胚凍結がOHSSの予防になるのは, 採卵周期に「妊娠による追加のhCG刺激」が加わるのを避けられるためです. 新鮮胚移植で妊娠すると,胎盤から分泌されるhCGが卵巣をさらに刺激し, 採卵のための刺激で腫れた卵巣が一気に悪化して「遅発性OHSS」を起こしやすくなります. 胚を凍結して周期を分けることで,卵巣が落ち着くまで待つことができ, この二重刺激を確実に回避できます.
② 生活リズムも重要視されるようになっています
最近は,
- 睡眠不足
- 慢性疲労
- ストレス
- 運動不足
なども,
排卵リズムへ影響する可能性が研究されています.
もちろん,
「生活改善だけでPCOSが治る」
という単純な話ではありません.
ただ,
身体の余力が少ない状態では,
ホルモン調節も乱れやすくなる可能性があります.
そのため,
- 睡眠
- 栄養
- 適度な運動
- 過度なダイエット回避
などを整えることは,
妊活全体の土台として大切と考えられています.
鍼灸は,睡眠・ストレス・自律神経の調整など,生活リズムの改善をサポートする補助的手段として役立つ可能性があります.
医療的治療と併用しながら,身体の土台を整える目的で取り入れられることがあります.
腸内環境との関連も研究されています
最近は,
腸内細菌叢(腸内フローラ)
との関連も研究されています.
PCOSでは,
- 腸内細菌の多様性低下
- 慢性炎症
- 代謝異常
との関連が報告されています.
まだ研究段階ですが,
- 食物繊維
- 発酵食品
- 睡眠改善
- 運動
などが,
間接的に良い影響を与える可能性が検討されています.
「PCOS=妊娠できない」ではありません
PCOSと診断されると,
強い不安を感じる方も少なくありません.
しかし実際には,
- 排卵誘発で妊娠される方
- 体外受精で妊娠される方
- 自然排卵が戻る方
も多くいます.
またPCOSは,
状態の幅が非常に大きい疾患です.
そのため,
「ネットで見た誰かのPCOS」
と,
「自分の状態」
は必ずしも同じではありません.
不安が強い時ほど,
主治医と相談しながら,
現在の自分の状態を整理していくことが大切です。
まとめ
現在のPCOS研究では,
- 排卵障害
- インスリン抵抗性
- 慢性炎症
- 酸化ストレス
- 生活習慣
などが複雑に関係する,
全身的な状態として理解が進んでいます.
ただし,
「PCOSだから妊娠できない」
という意味ではありません.
実際には,
年齢や代謝状態,卵巣反応性などによって状況は大きく異なります.
妊活では,
- 排卵だけを見るのではなく
- 睡眠
- 栄養
- 疲労
- ストレス
なども含めて,
身体全体を整えていく視点が大切かもしれません.
不安な時ほど,
一人で情報を抱え込みすぎず,
主治医や専門家と相談しながら進めていきたいですね.

