背中が苦しい 交感神経と筋と鍼

鍼と灸とLLLTと

背中が苦しくてどうしようもない、という苦痛を経験をされた方も少なくないのではないでしょうか?ものすごく痛いわけではないけれど、とにかく苦しいといった状況です。仕事柄このような症状を抱える方から相談を受ける機会は少なくありません。

背中には棘筋・最長筋・腸肋筋という脊柱起立筋群だけでなく、深いところには半棘筋、多裂筋、長・短回旋筋などという筋肉も存在しています。中層の脊柱起立筋も深層の回旋筋らも共に筋の運動という点では脊髄神経後枝の支配を受けています。

筋肉と交感神経

筋肉は筋を収縮させる運動神経以外にも交感神経の支配を受けています。具体的に言いますと、筋肉の筋繊維に交感神経が分布し支配しています。筋肉の緊張は交感神経の影響を大きく受けているのです。つまり、この交感神経が興奮すると筋肉の緊張が高まってしまいます。

また、交感神経は筋肉内の血管にも分布しています。交換神経の興奮は血管を収縮させるので、筋内の血流は低下してしまいます。

凝りコリという症状は、①筋肉が硬く縮こまり、②血行が悪くなり、③不快感を伴う状態です。そして,凝り症状成立には交感神経が深く関与しています。

背部の脊椎(背骨)の傍らには交感神経節がいくつも存在して、様々な組織や器官に分布して、それらの働き・機能をコントロールしています。何らかの影響で交感神経が正常範囲を超えて興奮した状態になると、その影響を受けた内臓などに不調が生じます。同時に、その支配を受ける筋肉も影響を受けてしまい、筋肉が異常に緊張した状態が生じてしまいます。

自律神経系の概要 をご参照ください

どのような要因が交感神経の働きに影響を与えるのか?

自律神経は不随意にコントロールされている神経ですが、その働きは決して乱れないと言うことではありません。

自律神経の大脳辺縁系、視床下部、延髄や脊髄の交感神経節と副交感神経節などによってコントロールされています。このため自律神経は、悲しみ・怒り・恐怖・不安といった情動、苦痛やストレス、ホルモンバランス・睡眠の乱れ・身体の不調などに反応して働きが乱れてしまいます。

このような影響を受けて交感神経が過剰に興奮した状態になると筋が異常に緊張して不快感が生じることになります。

ストレッチなどのセルフ対処法は?

背中が苦しいといった不快感とともに背部の筋が緊張している場合には、ストレッチで改善するには些か困難が伴うかも知れません。

体幹部は椎骨や肋骨・胸骨によって胸郭が形成されています。胸郭は中に収まっている内臓を保護する目的で形成されており、頸部や腰部と異なり胸背部の可動は僅かなものにとどまります。

このため背部のコリにはあまりストレッチは効果的ではないかも知れません。また、改善していれば長期間苦痛に悩まされることもないように思います。

鍼灸で背部の苦痛症状に対処法するには?

背中の苦しさを訴える方の中には、その苦しさのために夜もなかなか寝付けないとか、仕事や勉強に集中できない、などといった症状を併せて苦しんでいる方も少なくありません。

このような方の背中を観察すると最長筋や腸肋筋といった脊柱起立筋が硬くは張っていることが少なくない。

ところが、そのような状態の筋肉に鍼を刺入してもあまり症状が改善しない、或いは改善した状態が長続きしないといったことが頻繁に見られます。

鍼を刺入する角度や向きなどを調整しながら施鍼しても、あまり変化がないこともあります。もちろん、部位によっては深部に肺があるため、気胸に注意しながら施鍼することは言うまでもありません。

このような場合には、ライラック治療室では上で記述した半棘筋や多裂筋、回旋筋の横突棘筋すなわち深層の固有背筋に注目して施鍼します。

これらの筋は脊椎の運動や安定を担う筋であり支配神経は脊髄神経後枝であるため、異常な緊張など筋肉の変調という点では触知しやすい中層の脊柱起立筋と連動することが多い筋です。

筋肉は筋膜(fascia)で覆われていますが、この筋膜には痛覚のレセプターが存在します。負担がかかるなど何らかの影響で長く緊張を強いられた筋膜や長期間炎症に曝された筋膜の繊維は、硬いコラーゲンの繊維に変性していることが多く、この影響でレセプターが異常に興奮して苦痛を感じるようになる。弊鍼灸院ではこのように考えています。

鍼師が経穴に鍼を刺入する場合には、鍼を通じて鍼尖の情報を感じ取ることができます。具体的にどのようなことかといいますと、表層筋・中層筋・深層筋のように筋が重なり合っているところでは、鍼尖が表層に入った、中層の筋膜に当たったといったことを触知することができるようになります。

深層の固有背筋の解剖学的な知識と鍼を通した感覚を活用して、深部の横突棘筋に施術していきますと、術者には硬い筋膜にあたる感覚、同時にクライアントには強い得気とっきが生じます。

このような施術を丁寧に繰り返していくと、施術の効果が長く継続することを多く経験しています。難点としては、どうしても得気の感覚が強くなりやすいので、得気、換言すれば鍼響感はりのひびきが苦手な方にはお勧めしにくいということです。

苦痛が治まればそれでいいの?鍼灸ではどうするの?

特定の症状が現れるには特定する手段の有無は別として,それなりの因果が存在するはずです。背中の深部の筋が過緊張を起こして苦痛を発現するにも何らかの原因があるはずなので、そこを考慮して対処しなければクライアントは苦痛と緩和のループに陥るだけかも知れません。

睡眠不足、慢性疲労、抑うつ、不安、運動不足、姿勢不良、胃腸の不調…

ほんの一例にすぎませんが、これらは直接的にあるいは神経反射的に筋の緊張に影響します。

クライアントによっては踏み込まれることを毛嫌いする方もあるため難しい面もありますが、弊鍼灸院では可能な限り推定される原因にもアプローチするようにしています。

経穴の観点から言いますと、背部には沢山の経穴があり局所の筋だけでなく、様々な臓器の不調などに効能を有するのも多くあります。解剖学的に深層の固有背筋とかかわりがありそうな華佗夾脊かだきょうせき穴群に、背部兪穴といわれる臓腑とかかわりの深い経穴への施鍼せしんを加えるといった手法は鍼灸師には手軽にできる方法かと思います。

背部兪穴は脊椎の両側に存在する経穴で、穴下の筋肉だけでなく肺兪、心兪、膈兪、肝兪、脾兪、三焦兪さんしょうゆ、大膓兪などというように各臓腑と関連しその働きを整えるものが多い。体内の気血の状態を整えることで自律神経の乱れの改善にも寄与します。

また、頭皮鍼や頭部経穴への施灸などを併用して、リラックス効果、交感神経の抑制などを図ることも大切です。

もちろん運動などを進めることも大切だと思っています。有酸素運動的な持続的運動も大切ですが、短い時間であっても緩急をつけて行うことも必要だと思います。

どういうことかといいますと、数十メートルほどダッシュをしては歩くを繰り返す、というということです。インターバルトレーニングとでもいうのでしょうか?

交感神経の過剰な活動を低下させ、副交感神経活動の増加が通常の運動よりも高いとも報告されています。

ご参考までに
運動療法による自律神経と循環のコントロール

交感神経が過剰に興奮していることによる神経反射によって背中が苦しいといった症状が起こっている場合には、その改善や予防に役立つかもしれません。

運動といえるのかどうかわかりませんが、個人的には皿を割るといった感じの行為には好意的です。スカッとしますしね。やる場合は、充分に安全に配慮したうえで、自己責任でお願いします。

施術例

40代女性。
背中が苦しくてどうしようもない…といって来院。

症状の程度には波があるものの慢性的。ひどい時には、背中の重苦しい痛みだけでなく、胸の方まで苦しくなることもある。マッサージや整骨に頻繁に通っているがあまり改善しない。運動を勧められるが、仕事が忙しく難しい。自分でストレッチをしたり、寝起きに伸びをしたりすると、背中が攣りそうになり強い痛みが生じることがあり、思い切ってすることができない。事務系のため一日中座っていることが多い。

触ってみると背部の起立筋群が非常に硬く張っていてゴリゴリしている。圧痛点を確認し念のため確認すると、筋膜が厚くなっていることが観察できた。筋膜上のトリガーポイントに対して鍼治療を行うことにした。

鍼がツボをとらえると、初めはその感覚に驚いていたが、まさしく苦しい部分に当たっているような感じがするという。慎重に数本の鍼を刺入し鍼操作を行い筋膜に刺激を与えていく。
治療後、鍼がまだ刺さっているような感じがするが非常にスッキリしたと何度も言っていた。

この方の場合、3回ほど続けて治療を行ったところ症状はなくなったので、背部のストレッチ法などを確認して治療を終えました。
筋膜上にトリガーポイントの形成を促進する要因は、筋の使い過ぎ、使わなすぎ、加齢といわれています。このケースでは、仕事柄背部の筋の不動が一番の問題かと思われます。やはり運動をすることは難しいとのことなので、月に1~2回ほど身体のメンテナンスを兼ねて通院されております。以後、多忙な時でもあまり強い症状は出ていません。

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