中医学から考える「冷え性」──体質だけではなく、身体の状態によって変化するもの

ツボとお灸と

はじめに

冷え性で悩んでいる方は,少なくないかと思います.
国内調査では,女性の約8割が冷え性を自覚しているとも報告されています.

では、冷え性とは「仕方がない」症状なのでしょうか?

中医学では「冷え」は病気ではなく,身体全体のバランスが崩れた結果として現れる症状と考えられています.

中医学では人の身体を観察するときに,証という概念を使用します.

ここで留意すべきは,中医学でいう「しょう」は,生まれつきの体質だけでは決まらないということです.

仕事やストレス,睡眠不足,加齢,病気,生活環境などの影響を受け、その時々の身体の状態によって変化するものなのです.

つまり,「冷え性」と一言でいっても,人によって原因は異なり,同じ人でも年月とともに変化していくものとして捉えられています.

冷え性は一つの証では説明できないことが多い

中医学には「弁証論治」という考え方があります.

これは症状そのものではなく、原因のタイプを見極めて、そのタイプに合う治し方を選ぶ方法と考えて頂いて差し障りないかと思います.

身体全体を観察し、

  • 気が不足しているのか
  • 血が不足しているのか
  • 水分代謝が悪いのか
  • 熱を作る力が弱いのか

などを総合的に判断します。

臨床では、

  • 腎陽虚じんようきょ
  • 脾気虚ひききょ
  • 血虚けっきょ
  • 気滞きたい
  • 瘀血おけつ

などが単独で存在するよりも,

「脾気虚に血虚が加わる」
「腎陽虚に瘀血を伴う」
「気滞が長く続き血流まで悪くなる」

というように,複数の証が重なっているケースの方がむしろ一般的です.

また,治療や生活習慣の改善によって証の構成要素は変化していきます.

そのため,「私は○○タイプだからこのツボだけ」という単純な考え方ではなく,その時々の身体の状態に合わせた調整が大切になります.

現代医学から見ると、これらは何を意味しているのでしょうか

もちろん,中医学の証と現代医学の病名は一致するものではありません.
これは言葉が違えば完全な翻訳が難しいように,中医学と現代医学は別な概念ですから仕方がないと言えます.

しかし,近年では両者を結び付けて考えられる部分も増えてきました.

以下に少しだけ例を挙げておきます.

腎陽虚

中医学では

「身体を温める力が弱い状態」

と考えます.

現代医学的には,

  • 加齢
  • 基礎代謝の低下
  • 筋肉量の減少
  • 自律神経機能の低下
  • ホルモンバランスの変化

などが関係している可能性があります.

脾気虚

「気を作る力」が低下した状態です.

食欲低下,疲れやすい,胃腸が弱いなどを伴います.

現代医学的には,

  • 消化吸収機能の低下
  • 栄養不足
  • 慢性的な疲労
  • 睡眠不足
  • エネルギー代謝の低下

などと重なる部分があります.

十分な栄養が利用できなければ,身体は熱を作ることも難しくなります.

血虚

中医学では「血」は酸素や栄養を全身へ運ぶ役割も含めた概念です.

血虚では,

  • 顔色が悪い
  • めまい
  • 動悸
  • 手足の冷え

などがみられます.

現代医学では,

  • 鉄欠乏
  • 貧血
  • 栄養不足
  • 睡眠不足
  • 慢性的な疲労

などが関係している可能性があります.

気滞

ストレスなどにより,自律神経の調節が乱れた状態と考えると理解しやすいでしょう.

交感神経が過度に緊張すると,

末梢血管が収縮し,

手足への血流が減少して冷えを感じやすくなります.

瘀血

瘀血おけつは「血液がドロドロ」という意味ではありません.

中医学では,

局所の血流が滞り,循環が悪くなっている状態を表します.

現代医学的には,

  • 微小循環障害
  • 血流低下
  • 筋緊張
  • 慢性炎症

などが一部重なる概念と考えられています.

セルフケアなら、この4つのツボがおすすめ

証を完全に見極めることは,ご自身だけでは容易ではありません.

そのため,セルフケアでは,多くの冷え性の方に比較的使いやすい代表的な経穴を選んでみました.

関元(かんげん)

下腹部にあるツボで,おへそから指4本分ほど下.

中医学では「元気」を補い,腎を温める代表的なツボ(経穴)です.

関元は足の3つの陰経と任脈が交わる経穴でもあります.

腎陽を補い,身体の中心から温める働きがあると考えられています.

特に下腹部の冷えや,疲れやすい方によく用いられます.

足三里(あしさんり)

下腿(膝から下)にあるツボで,胃腸を整え、気を補う代表的な経穴(ツボ)です.

食欲がない,疲れやすい,胃腸が弱いという方にもよく使用されます.

身体が熱を作るためには十分なエネルギーが必要であり,その土台を支える経穴といえます.

血海(けっかい)

血を養い,巡らせる代表な経穴です.

女性の冷えや月経に伴う不調にも古くから使用されてきました.

血流を整えることは,冷え性改善の重要なポイントになります.

三陰交(さんいんこう)

脾・肝・腎の三つの経絡が交わる重要な経穴です.

冷え性だけでなく,

  • むくみ
  • 月経痛
  • 更年期症状
  • 婦人科系の不調

などにも幅広く利用されています.

全身のバランスを整える代表穴として知られています.

市販の温灸によるセルフケアという選択

これらの経穴は,市販の温灸でも比較的取り組みやすい部位です.

現在のところ,市販温灸によるセルフケアが冷え性を改善するという質の高い科学的エビデンスは十分ではありません.

一方で,お灸は数千年にわたり東アジアで行われてきた伝統的な養生法でもあります.

心地よい温熱刺激により,

「身体が温まる」
「リラックスする」
「セルフケアの時間を持つ」

ということ自体にも意味があると考えられます.

無理をせず,やけどに注意しながら継続することが大切です.

鍼灸院へ通うメリット

セルフケアだけでは届きにくい場所があります.

例えば,

  • 背部兪穴
  • 頭部の経穴
  • 首肩周囲
  • 骨盤周囲

などは,自分一人では安全かつ正確に施術することが難しい部位です.

鍼灸院では,これらの経穴も組み合わせながら,全身のバランスを調整できます.

また,毎回身体の状態を確認し,

  • 腎陽虚が中心なのか
  • 気血不足が目立つのか
  • ストレスによる気滞が強いのか
  • 瘀血が加わってきているのか

などを評価し,その日の状態に応じて使用する経穴を調整できることも大きなメリットです.

さらに,

  • 冷えの背景に病気が隠れていないかを確認し,必要に応じて医療機関への受診を勧められること
  • 日常生活や食事,睡眠,運動などの養生について個別にアドバイスを受けられること
  • セルフケアの方法や温灸を行う経穴が適切かどうかを定期的に見直せること

も,専門家と一緒に取り組む価値といえるかと思います.


まとめ

冷え性は単に「体質だから」と片付けられるものではありません.

中医学では、気・血・水や臓腑のバランスを総合的に捉え,その時々の身体の状態に合わせて考えます.

証は一つだけとは限らず,複数の病理が重なり合い,時間とともに変化していくことが少なくありません.

セルフケアとして市販の温灸を取り入れるのであれば,

  • 関元
  • 足三里
  • 血海
  • 三陰交

は比較的幅広いタイプの冷え性に用いやすい経穴です.

一方で,より効果的な全身調整を目指すのであれば,身体の状態を確認しながら施術内容を調整できる鍼灸院との併用も有力な選択肢です.

冷えは身体からのサインです.

一時的に温めるだけでなく,「なぜ冷えているのか」を考えながら身体全体を整えていくことが,長期的な健康につながると思います.

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