原因不明の坐骨神経痛とは? 老化・炎症・線維化との関係

鍼と灸とLLLTと

坐骨神経痛は「病名」ではない

坐骨神経痛と診断されたものの、検査では原因が分からないケースがあります。本記事では、この“原因不明の坐骨神経痛”に注目します。

「坐骨神経痛」という言葉を耳にされた方は多いと思います。しかし実は、坐骨神経痛は病名ではありません。
腰からお尻、太もも、ふくらはぎ、足先にかけて広がる痛みやしびれの症状をまとめて呼ぶ総称です。

坐骨神経は人体で最も太く長い末梢神経で、腰椎から仙骨せんこつを経て下肢に伸びています。そのため、この経路けいろのどこかで障害が起こると、典型的な「腰から足にかけての放散痛」が生じます。

坐骨神経痛の原因

坐骨神経痛を引き起こす代表的な疾患には以下のようなものがあります。

  • 腰椎椎間板ヘルニア
     椎間板が飛び出し、神経を圧迫する。若年〜中年に多い。
  • 腰部脊柱管狭窄症
     加齢による骨や靱帯の変化で神経の通り道が狭くなる。中高年に多く、歩くと症状が悪化する「間欠性跛行かんけつせいはこう」が特徴。
  • 梨状筋症候群りじょうきんしょうこうぐん
     殿部深層の梨状筋りじょうきんが硬化し、直下を通る坐骨神経を圧迫する。座位やスポーツ後に増悪する。

これらのように原因が明確な場合は病名で診断されるのが通常です。
一方で、画像診断を行っても明確な異常が見つからない「原因不明型」の坐骨神経痛も少なくありません。

原因不明の坐骨神経痛はどのくらいあるか

腰痛全体では実に85%が「非特異的ひとくいてき腰痛=原因不明」といわれています。
坐骨神経痛のように下肢かし症状を伴う場合は、ヘルニアや狭窄きょうさく症といった明確な原因が見つかることも多いですが、それでも全体の2〜3割程度は「原因不明」とされるケースがあると報告されています。

つまり、「腰から足がしびれるのに、検査でははっきりしない」という患者さんは決して珍しくないのです。

老化は炎症の積み重ね

では、なぜ原因不明の坐骨神経痛が生じるのでしょうか。
近年注目されているのが、「老化とは炎症の積み重ねである」という考え方です。医学的には 炎症性老化(inflammagingインフラメイジング と呼ばれます。

炎症は体を守るための反応です。ケガや感染のときに赤く腫れて治るのも炎症の働きです。しかし、加齢とともに体の内部では目に見えない小さな炎症があちこちで起こりやすくなります。これは慢性的で弱い炎症ですが、長期にわたり蓄積していきます。

炎症から線維化せんいかへ、そして神経障害へ:原因不明の坐骨神経痛に考えられる要因

炎症が繰り返されると、体は修復を試みます。その過程で余分なコラーゲンが沈着し、筋肉や靱帯じんたいが硬くなる=線維化せんいかが進行します。

線維化した組織は弾力を失い、柔軟性がなくなります。年を取ると「体が硬い」と感じるのは、単に運動不足ではなく、こうした線維化の影響も大きいのです。

問題は、その近くを走る神経です。坐骨神経は筋肉や靱帯の間を通って長く伸びています。線維化で硬く厚みを増した組織は神経を圧迫し、さらに神経を養う毛細血管の血流を妨げます。その結果、神経は虚血きょけつ状態に陥り、痛みやしびれを生じやすくなるのです。

このように 「老化=炎症 → 線維化 → 血流障害・神経障害」 という流れで説明できるケースは、まさに「原因不明型坐骨神経痛」の一因と考えられます。

整形外科で難航する理由

椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症せきちゅうかんきょうさくしょうのように構造的な異常がはっきりすれば、手術やブロック注射などの治療方針が立てやすいです。
しかし、線維化や血流障害といった「画像に写らない微小な変化」による坐骨神経痛は、整形外科でも診断・治療が難しく、「原因不明」とされるのです。

鍼灸ができること

ここで注目したいのが、鍼灸によるアプローチです。鍼灸はもともと、

  • 血流改善
  • 筋緊張の緩和
  • 自律神経の調整

を得意としています。これはまさに、炎症や線維化で硬くなった軟部組織や、虚血に陥った神経環境を改善する方向性と一致します。

実際、臨床の現場では「病院で原因が分からない」「薬であまり効果がない」といった坐骨神経痛の患者さんが鍼灸で改善するケースも珍しくありません。

まとめ

坐骨神経痛は病名ではなく「症状名」であり、原因が明確な場合はヘルニアや狭窄症といった診断名が用いられます。
しかし、全体の2〜3割は「原因不明」とされ、その背景には 老化に伴う炎症・線維化・血流障害 が関わっていると考えられます。

整形外科的には難しい領域ですが、鍼灸は血流と筋緊張に働きかける治療法として、この「原因不明型坐骨神経痛」にこそ可能性を秘めています。

「原因不明だから仕方ない」と諦めるのではなく、鍼灸という選択肢があることを知っていただきたい ——
これが本記事でお伝えしたかったことです。

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