基礎FSH値とは?
妊活や不妊治療を始めると,「FSH」という言葉を耳にすることがあります.
特に,
「基礎FSH値が高いですね」
と言われ,不安になる方も少なくありません.
では,基礎FSH値とは何なのでしょうか.
また,なぜ値が高いと注意が必要なのでしょうか.
今回は,卵胞発育とホルモン調節の仕組みから,わかりやすく解説します.
FSHは月経周期によって変動するホルモンです.
そのため不妊治療では通常,
「月経開始2〜5日目頃」
に採血したFSH値を参考にします.
これを「基礎FSH値」と呼びます.
FSHとは何か?
FSHは,「卵胞刺激ホルモン,follicle-stimulating hormone」のことです.
脳の下垂体という場所から分泌され,卵巣に対して,
「卵胞を育ててください」
という指令を出しています.
卵巣の中には,多数の小さな卵胞があります.
その中からFSHの刺激を受けた卵胞が成長し,最終的に排卵へ向かいます.
つまりFSHは,卵胞発育を支える重要なホルモンです.
なぜFSH値が高いと好ましくないのか?
一見すると,
「卵胞を育てるホルモンなら,多い方が良いのでは?」
と思うかもしれません.
しかし実際には,基礎FSH値が高い状態は,
「卵巣が,通常より強い刺激を必要としている状態」
を意味することが多いのです.
正常な卵巣では,小さな卵胞がFSHにしっかり反応します.
すると卵胞から,
- エストラジオール(E2)
- インヒビンB
などのホルモンが分泌されます.
これらは脳に対して,
「卵胞は順調に育っています」
というサインを送ります.
すると脳は,
「それならFSHをあまり増やさなくて大丈夫」
と判断し,FSH分泌を適度に抑えます.
これが正常なホルモン調節機構です.
FSH値が高い時,体内では何が起きているのか?
基礎FSH値が高い場合には,
- 卵胞数の減少
(卵巣の中に残っている卵の数が少なくなっている) - 卵胞の反応性低下
(卵胞がホルモンにうまく反応しにくくなっている) - 顆粒膜細胞機能低下
(卵胞を育てる細胞の働きが弱くなっている ≒ エストロゲンを作る力が落ちている)
などが起きている可能性があります.
つまり卵巣側が,脳からのFSH刺激に十分応答できなくなっている状態です.
その結果,
- エストラジオール分泌低下
- インヒビンB分泌低下
が起こります.
エストラジオール(E2)は,エストロゲンの一種で,生殖器の女性では最も活性が高い.
インヒビンBの主な働きは,FSHの分泌量を抑制すること.
すると脳は,
「卵胞が十分育っていない」
と判断します.
そのため,下垂体はさらに多くのFSHを分泌しようとします.
つまりFSH高値は,
「卵巣機能低下の結果として生じるサイン」
と考えられることが多いのです.
卵胞内ではどのような変化が起きているのか?
FSH高値の背景では,卵胞内環境にも変化が起きていると考えられています.
例えば,
- 卵胞発育の同期性低下
(本来そろって育つはずの卵胞たちの成長スピードがバラバラになっている状態) - 卵胞選抜の早期化
(卵胞は本来,しばらくの間は複数が一緒に育ち, その中から1つが選ばれて排卵に向かいます.ところが卵巣の力が弱ってくると, まだ小さい段階で “1つだけが先に伸びてしまう” ことがあります. これを「卵胞選抜の早期化」と呼びます) - 卵胞期短縮
(卵胞の成長がそろわなくなったり, 1つだけが早く伸びてしまうと, 排卵までの期間が短くなることがあります. これを「卵胞期の短縮」と呼びます) - 未熟な状態での排卵方向への移行
(卵胞期が短いと,卵胞が十分に育つ前に排卵してしまうことがあり, 卵巣機能の低下と関連することがあります)
などです.
正常な状態では,多数の小卵胞がある程度足並みを揃えて発育します.
その中から最終的に主席卵胞が選ばれます.
しかしFSHが高い周期では,
「卵胞を急いで育てようとする状態」
になりやすく,卵胞発育のバランスが崩れることがあります.
その結果,
- 採卵数減少
- 卵胞サイズのばらつき
- 未熟卵増加
- 空胞増加
などにつながる場合があります.
卵子の質との関係
FSH高値では,「卵子の質」が問題となることもあります.
卵子は長期間卵巣内で保存されます.
その間,
- 酸化ストレス
(酸化ストレスとは,体の細胞が “サビつく” ようにダメージを受ける状態です. 加齢やストレス、生活習慣の乱れなどで活性酸素が増えすぎると, 卵巣や卵胞の細胞が傷つき,発育の質に影響することがあります) - 加齢
- ミトコンドリア機能低下
- DNA損傷蓄積
などの影響を受けます.
通常,卵子にはある程度DNA修復機能があります.
しかし加齢や卵巣予備能低下により,この修復能力が低下すると,
- 染色体異常
- 分割停止
- 胚盤胞到達率低下
- 流産率上昇
などにつながる可能性があります.
そのため,高FSH周期では,
「卵胞が育ちにくい」
だけでなく,
「育った卵胞内の卵子の質にも影響が及んでいる可能性」
が考えられるのです.
FSHが高いと妊娠できないのか?
もちろん,そうではありません.
実際には,
- 月経周期
- 年齢
- AMH
- AFC(胞状卵胞数)
- 採卵反応
- 胚盤胞到達率
などを総合的に評価します.
FSHがやや高めでも,
- 良好胚が得られる
- 妊娠に至る
ケースは珍しくありません.
特に近年は,
「数より質」
を重視した考え方も広がっています.
日常生活で意識されること
卵巣機能や卵胞環境には,
- 睡眠
- 栄養状態
- 血糖管理
- 喫煙
- 慢性炎症
- 強いストレス
なども影響すると考えられています.
現代の医療技術をもってしても,卵巣年齢を若返らせることは極めて難しいとされています.
しかし,
「卵胞が育ちやすい環境を整える」
という視点は重要視されています.
妊活では,不安から数字だけに意識が向きやすくなります.
しかしFSH値は,「今の卵巣の状態を推測するための一つの情報」です.
数値だけで悲観し過ぎず,主治医と相談しながら総合的に判断していくことが大切です.

