腰痛が良く起こるところ
一口に腰が痛いと言っても,確認してみると痛む部位は人それぞれ大きく異なります.身体の部位を指す言葉は,同じ単語を使用していても意図する部位が全く異なることが往々にしてあります.例を挙げるならば,「腰が痛いです」と言われて確認してみると「殿部」だったり股関節(大転子)の近くだったりするなどです.「肩が痛いです」といわれて,首肩の凝りなどによる「肩上部」の痛みかなと思って確認すると,実際には上腕部の痛みだったりすることは珍しいことではないのです.施術の際には何処が痛むのかを指さして貰って確かめることが不可欠です.
若干はなしがそれていますが,腰痛は腰のどの辺りの部位に生じているのかを調べた方がいらっしゃるようで,そのデータによりますと以下のようになるそうです.
最も頻度が高いのは緑の部位,脊柱起立筋群で外側に当たる部分でしょうか.頻度的には42%だそうです.
- 最も頻度が高いのは緑の部位,脊柱起立筋群で外側に当たる部分でしょうか.頻度的には42%だそうです.
- 赤い部分は腰椎の棘突起に当たる部分で,およそ17%.
- 青い部分は,棘突起の外側で,筋で言えば半棘筋・多裂筋・回旋筋,関節ですと椎間関節などが関与する部分でしょうか.およそ16%.
- 灰色の部分は,殿筋とかその付着部位の痛みですね.併せると12%ほど.
- 紫色の部分は,腰の外側部分の痛みで,3%程です.経絡で言いますと胆経とか陽蹻脈や陽維脈の辺りでしょうか?ゴルファーさんとかの腰痛なんかが関連しそうです.
- その他に仙骨部の痛みが3%ほどあるようです.
Reference: 図解鍼灸臨床手技マニュアル 尾崎昭弘著 医歯薬出版
合計すると100を超えていますが,同時に複数部位が痛む例が入っているのかも知れません.
腰にはどのような経絡が纏っているのか?腰痛と関わりが深い経絡は?
腰部には中心部(脊椎)から順に督脈,足太陽膀胱経(1側線・2側線),足少陽胆経の三本が縦方向(頭部から足方向)に走っています.また,奇形の一つである帯脈はベルトのように腰腹部を一周しています.このほかに陽蹻脈や陽維脈という奇経も体位側部を走っていますが忘れてしまっても問題ないかと思います.
督脈とは
督脈は胞中に端を発し陰部から背部へ周り脊中の中心を上行して脳や額・鼻根へと繋がります.腰部に関して言えば背骨の中心を走ってると言うことです.このため督脈の経気の変動は腰背痛と大きき関わります.特に脊椎付近や尾骨部の痛み・こわばりなどは関わりが深いと考えられます.椎間板や(圧迫)骨折などが関係する痛みと関連が深いかも知れません.
足太陽膀胱経とは
足太陽膀胱経は背部・腰部・殿部を広汎に纏っています.このため膀胱経の気血の流れ眥に変動が生じると,背部腰部殿部と広汎な部位が影響を受けて痛みが生じると共に,身体の運動(動き)を支配している経筋にも影響が及ぶので,硬直や腰を曲げられないといった症状起こってしまうこともあります.椎間関節や脊柱起立筋群辺りが関連深そうです.
足少陽胆経とは
腰との関連でいえば,体側部から下肢の外側を走行しているので,腰の外側あら下肢にかけての痛みなどと関連があるでしょう.ゴルファーの腰痛などに関与しそうな経脈ですね.
帯脈とは
奇経にぞくする帯脈は腰の部分でベルトのように一周巡っています.諸経脈をしっかりと束ねることで,筋骨の協調運動である腰の動きがスムースになると考えられています.督脈・任脈・衝脈と同じ胞中に端を発し関連深いため婦人科系の症状にも関連が深い脈です.
経絡って何ですか?
身体を縦横にめぐる経絡.気血津液の流れる通路であり,身体各所を隈なく滋養する機能役割を果たしている。腰の運動に重要な役割を果たす関節や筋にとっても経絡からの滋養は不可欠となります.
厳密に言えば経脈と絡脈とに区別されますが,気血の通路であることに変わりはありませんから,患者(クライアント)として東洋医学の知識を欲する方には重要な知識ではないと思います.
この経絡,体表に現れている部分にはツボとして親しまれている経穴が多数存在しています.十二正経と督脈任脈上にあるだけでも361穴存在しているそうで,その他にも経外奇穴や新穴といわれているものが多数存在しています.こうなりますと,わたくしのような場末の鍼術師程度には正確な数は分かり兼ねます.きっぱりと,お手上げです.検索すれば経絡の人体流注図を見つけるのは難しくないですから,興味ある方は画像を検索してみてください.
経絡にはどのような働きがあるのか?
既に,経絡は気血津液の流れる通路であると記しましたが,わざわざ段落を設けることから察せられるように経絡の働きはそれだけではありません.
- 身体各所の組織・器官を滋養する役割
- 病邪を伝達して病状を反映する働き
外邪が侵入したり臓腑の機能が損なわれると経絡に変動が生じ,関連する体表部位(経穴含む)に異常が生じる.
➤➤➤この体表変化を観察することで状態を推測することができる. - 鍼灸の刺激を伝達する役割
鍼灸の刺激は経絡により伝えられることで,気血津液を臓腑の失調を調整できる.
東洋医学と主な腰痛のタイプ
腰痛の要因って東洋医学でも結構様々なのですが,ざっくりと以下の3タイプに分類されることが多いです.瘀血といっても原因は様々ですし,腎虚であればそもそも寒実の侵入に弱いからなどと考えてしまうと大変ですから,さらっと流すことも大切です.
寒湿による腰痛
腎気が充実しているのに,寒湿の邪の影響により腰部の経絡が阻滞して生じる腰痛.重怠いような痛み・痺れが生じることが多い.
寒邪の性質には,陽気を損傷しやすいこと,経絡で気血津液の凝集・滞りおこりやすいこと,収引性といって経絡や筋脈に収縮拘急がおこりやすいなどがある.
湿邪の性質には,重濁性によって身体や四肢が重いといった症状が現れやすい.粘滞性といって粘りと停滞が生じやすくなる.また,湿邪は脾の陽気を損傷しやすいため,これにより消化器の不調が生じると姿勢が悪くなりやすい.湿邪には以上のような性質があります.
お住まいの地域の特性や自分ではコントロールできない職場環境などは影響が大きいかも知れません.
腎虚による腰痛
腎虚とは腎の働きが低下した状態.腎の代表的な働きに「蔵精を主る」ことがあります.精とは生命活動と維持する基本物質のこと.気の生成にも必須です.慢性疾患や過労,睡眠不足などで腎精が消耗すると腰部の経脈が筋や関節を濡養できなくなり腰痛が生じます.また,腎は骨を主るため,加齢による骨粗鬆症,椎骨の圧迫骨折,分離症・すべり症なども背景には腎虚があるとも言えます.(ビタミンDやエストロゲンが腎精だ!とは申しませんが)
瘀血による腰痛
瘀血というのは血液の運行が停滞して経絡や臓腑に溜まった血液のことです.瘀血が形成される要因は多様です.気虚・気滞・血寒・血熱・外傷など様々なものがあります.血を運行するのに欠かせない気が消耗したり,情志の影響でスムースに流れなくなる.寒の凝集や滞りの影響,熱による粘賦停滞,外傷による瘢痕化の影響と言い換えた方がわかりやすいでしょうか?最近では不動(動かないこと)が組織の線維化を進めるともいわれています.運動量の低下(不足),長時間の座位(仕事・加齢)なども関与しているかも知れませんね.
ツボはどのように決めるのですか?
鍼灸は伝統に裏打ちされた技術ですが,その反面バリエーションに富んでいるともいえます.どのようなことかと申しますと,鍼術師の考え方によって施術方法がまちまちであるということです.実際にどの位のバリエーションがあるのか?わたくしのような場末の鍼術師には判りかねます.
わたくし個人としましては,症状(腰痛)の要因を整理した上で,穴性を考慮した経穴に施鍼します.
例えば,寒湿により腎陽が虚損しているのであれば,命門や関元・神闕をチョイスします.足太陽膀胱経に瘀血が生じているなら委中により行血祛瘀を図ることもあります.委中には清熱の作用もありますから急性腰痛の炎症などにも使う場合があります.
同じ経穴でも,いくつかの作用性を持つことも普通ですから,目的に応じたツボの組み合わせや鍼の操作も必要になります.そのようなことを考えながら鍼を打っています.