新たな命に先天の精を授け自立可能な状態まで体内で育て上げる.妊娠から出産までの僅か280日前後のこの過程は女性にとってとてもドラスチックな経験の一つとも言えるでしょう.お灸は平らかなお産,健やかな児の発育などを目的に古くから行われてきました.
近年では妊婦の冷えと異常分娩の関連が指摘されています.セルフケアとして自宅でも行いやすいので挑戦してみてはいかがでしょうか?
安産のお灸はどのツボに据えるのですか?
主に三陰交という経穴を使用します.この経穴は足太陰脾経という経絡に属する経穴です.この経穴で足太陰脾経は足少陰腎経と足厥陰肝経と交会しています.つまり,肝主疎泄,肝蔵血,脾主運化,脾統血,精血同源などと言われるように妊娠の維持に取って重要な足の三陰経が三陰交で交会しているのです.
三陰交にはどのような効果が期待できるのですか?
三陰交には,体内の過剰な水分を排出しむくみや身体の重怠さなどを改善する作用があります.また,気と血の両法を補う作用があり,血室(胞宮=子宮)を整え温めることが可能です.
いつから始めるのですか?
妊娠24週頃からをお勧めしています.
ツボの効果というのは奥深いものがあり,経穴にどのような刺激を与えるかによって作用が異なってくる場合があります.三陰交は妊婦にとってはデリケートなツボですので,セルフケアとしてはあまり早くからは始めない方が良いと思います.
三陰交は何処にある?
下腿の内側で,内果先端と陰之陵泉を結ぶ線上.頸骨内側縁の後方,内果先端の上3寸
針灸学経穴編 東洋学術出版社
三陰交は内果のやや上方にあります.内果先端とは内果の最も隆起したところではなく,麓になります.3寸とは自分の人差し指から小指までの幅の長さです.太い頸骨という骨の後際に求めます.
三陰交の場所は触ると陥凹していると書かれていることもありますが,妊娠後期の方の場合では下肢が浮腫んでいるため陥凹がわかりにくいかと思います.周囲を軽く圧し心地よく感じる処でも構いません.
どんなお灸が良いですか?
既に述べたように三陰交は繊細な経穴です.安産のお灸として据える場合にはソフトな刺激が前提となります.お灸の種類は穏やかな刺激で心地よいものであれば何でも構いません.個人的には匂い煙の少ない炭化モグサを使用したスモークレスタイプが良いのではないかと思います.お灸の香りが好きという方もいるでしょうし,お好みで選んで頂ければと思います.
お灸を据える際に注意することは?
台座灸や温筒灸を据える場合には人によっては施灸の途中で熱すぎると感じる場合があると思います.この場合にはピンセットやトングなどを用いてお灸を取り除いてください.施灸途中に素手で台座や筒を掴むと火傷することがありますので十分にご注意ください.
棒灸をご使用になる場合には,雀啄といってツボ(三陰交)にゆっくりと近づけたり離したりしながら,心地よい輻射熱の温かさを5分ほど伝えてください.
棒灸を行う際には灰皿と火消しツボをお忘れなく.棒灸は火が消えにくいので,施灸終了後は上の写真のような火消しツボを用いて空気を遮断して艾の火を消します.ご準備お忘れなく.